• ヘルプ
  • MYページ
  • カート

[第2回] トラブルを回避するための契約書作成のポイント(1)

2018年7月5日更新

海外企業との取引はこう進める!トラブルに負けない契約書のつくりかた

[第2回] トラブルを回避するための契約書作成のポイント(1)

[今津泰輝氏(弁護士)][坂本 敬氏(弁護士)]
第2回では、海外企業と取引を行うにあたって、明確な契約書を作成しておくことの重要性について、ご説明いたします。

明確な契約書を作成しておくことの重要性
~信義誠実の原則は適用しない!?~

文化・商習慣、言語の違い

国内企業間の取引の場合には、「もし問題が生じたらこのように解決する」という暗黙の共通認識がある程度存在しますし、また、業界内での評判もありますので、事前に明確に合意していなかったとしても、柔軟な話し合いによる解決が成立する土壌があります。しかし、文化・商習慣が異なる海外企業との取引の場合には、そのような土壌は存在しにくくなります。
また、日本企業と海外企業がやり取りを行う場合には、少なくとも一方は母国語ではない言語でやり取りを行う必要がありますので、じゅうぶんな意思疎通を図りにくくなります。
文化・商習慣、言語が異なることを前提に、確実に共通認識を形成するためには、契約書という形で明確に合意しておくことが有効となります。
なお、海外企業との契約書は、多くの場合には、相手が非英語圏の国であっても、英文で作成されます。

~ケース1の場合~

前回のケース1においても、部品xが満たすべき仕様・品質や、瑕疵担保責任の期間について、双方の認識にずれが生じる、または争う余地が生じることを防ぐために、契約書や仕様書を作成することによって、明確にしておくべきでした。
瑕疵担保責任については、少なくとも、以下のように定めておくことが考えられました。
V warrants that the Products conform to the Specifications and are free from defects in design, material and workmanship for a period of one (1) year from J’s actual receipt of the Products in Japan.
(V社は、本製品が、本仕様に合致していること、並びに、設計、原料、及び製造の点において瑕疵がないことを、J社の日本における本製品の受領日から1年間保証する。)
なお、この条項例では、「Products」や「Specifications」の頭文字が文中であるにもかかわらず大文字となっていますが、英文契約書の場合には、その契約書の中で定義された用語であることを意味します。別途、「Specifications」を「別紙仕様書で定められた仕様を意味する」などと定義しておくことで、V社が保証する内容も明確となります。
「specifications」などと小文字で表記してしまうと、その用語が定義された意味で使われているのか不明確となり、紛争の種になりかねませんので、注意が必要です。

口頭証拠排除の原則

英文契約書は、元々のバックグラウンドである英米法の影響を強く受けていますが、英米法特有のルールのひとつに、「口頭証拠排除の原則」が存在します。
「口頭証拠排除の原則」とは、当事者間で最終的な合意を書面で行った場合、それ以前の矛盾する内容の合意には証拠能力がない、というルールです。
英文契約書では、そのことを明らかにするために、以下のような「完全合意条項」を設ける場合が多く見られます。
This agreement constitutes the complete agreement between the parties at the time of conclusion hereof, and no express or implied agreement between the parties before the conclusion hereof differing from the contents of this agreement shall be effective.
(本契約は、本契約締結時における当事者間の合意の全てであり、本契約の内容と相違する、本契約締結以前における当事者間の明示又は黙示の合意は、効力を有しない。)
前回のケース2においても、このような条項が存在したために、弁護士から、「事前にU社の担当者から得ていた承諾のメールを根拠に争うことは難しい」と言われました。
海外企業と契約書を作成する場合には、文言に忠実に解釈されたとしても問題のない契約書にしておく必要があります。

紛争解決コストの高さ

次回、詳しくご紹介いたしますが、海外企業との契約書においても、「日本での訴訟」「相手国での仲裁」などと、紛争解決の方法と場所を定めておくことが一般的です。
もっとも、どのような定め方をしたとしても、海外企業を相手にした場合、訴訟などの法的手段による紛争解決は、金銭的・時間的なコストが非常に大きくなってしまいます。そのため、特に中小企業であれば、現実的な解決策とならないことの方が多いかもしれません。
法的手段をとれないとなると、交渉による解決を求めても相手企業からはまともに応じてもらえず、泣き寝入りせざるを得ないこともあります。
そのため、そもそも紛争を発生させないようにすることが特に重要です。

次回以降、具体的な契約書作成のポイントをご紹介いたします。
企業実務サポートクラブとは?詳しくは資料ダウンロード
1冊無料お試しはコチラ


2024年5月8日(水)~5/10(金) 東京ビッグサイト
執筆者プロフィール

今津泰輝氏(弁護士)
米国を本拠地とする大規模ローファームを経て、今津法律事務所(現弁護士法人今津法律事務所)を開設。著書に『なるほど図解 会社法のしくみ』(中央経済社)などがある。
坂本 敬氏(弁護士)
平成27年1月弁護士登録、同月今津法律事務所(現弁護士法人今津法律事務所)に入所。

弁護士法人今津法律事務所
http://www.imazulaw.com/

企業実務サポートクラブとは?詳しくは資料ダウンロード
1冊無料お試しはコチラ