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[第4回] 有給休暇に関するトラブル事例

2018年9月20日更新

働き方改革・法改正でやるべき有給休暇管理はこう進める

[第4回] 有給休暇に関するトラブル事例

[大東恵子氏(特定社会保険労務士)]

有休取得に関するトラブルを避けるために

有給休暇について定めている労働基準法第39条第1項では、一定の条件を満たした労働者に対して、使用者による有給休暇付与義務を定めています。一方、その使途については明文化された規定がありません。

このあとご紹介する裁判例が示すとおり、よほど特殊な事情がない限り、有給休暇の取得理由が不適切であることを理由としてこれを認めない、という手段は取れないと考えておくべきです。これを踏まえて、有給休暇の取得に際してその理由を求めること自体が、労働者のプライバシー侵害と解される恐れがあることを認識しておく必要があります。

また、最近の報道で見られたいわゆる「有休クイズ」は、使用者側にすればそもそも有休取得をさせないことが前提の問題作成をしており、労働者側も「全問正解すれば有休が取得できる」という誤った認識が社内でまかり通っていることを示した不適切事例であると言えます。

労務管理上参考になる裁判例

最高裁第二小法廷昭和48年3月2日判決によりますと、有給休暇の成立要件に、「労働者による『休暇の請求』や、これに対する使用者の『承認』の観念を容れる余地はない」と判断し、有給休暇の取得にあたり使用者の承認が必要でないことを50年近く前に示しています。

これに対し、有給休暇の取得が制限されるべきと判断した代表的な裁判例を3つ紹介いたします。
(1)ストライキ(最高裁第一小法廷昭和61年12月18日判決)

業務の正常な運営の阻害を目的として一斉に休暇届を提出して職場を放棄・離脱することは、実質的に有給休暇という名目のストライキであるとして、このような場合は有給休暇の取得を認めるべきではないとの考えが示された。
(2)1ヶ月分の有給休暇申請に対する一部時季変更権(最高裁第三小法廷平成4年6月23日判決)

専門分野に携わる新聞記者で代替要員がいないなか、たとえ緊急事態の際は休暇を切り上げる旨の申告が労働者側からあったとしても、使用者が提案した2週間ごとに分割しての有給休暇取得という時季変更権の行使は適法である。事業運営にもたらす影響を鑑みれば、使用者にある程度の裁量的判断の余地を認めざるを得ず、時季変更権も労働者に対して相当配慮しており不合理とは言えない。したがって、当該時季変更権を無視して約1ヶ月の連続休暇を取得した労働者の有給休暇を一部認めないとの考えが示された。
(3)特定の業務を拒否する目的での有給休暇取得(東京高裁平成11年4月20日判決)

深夜乗務制度は深夜のタクシー不足や労働時間の短縮という社会的・経済的要請を理由とするもので、その必要性が高いと認められる。したがって、タクシー会社の運転手が深夜乗務を拒否するために有給休暇を取得するのは、権利の濫用として無効との考えが示された。
また、これまでと少し性質は異なりますが、もうひとつ裁判例を紹介しましょう。有給休暇付与の条件である出勤率8割以上の要件に関連して、労働者が不当解雇で争ったケースです。解雇は無効になったものの、その裁判結果が出るまで就労できなかったことを理由に、上記出勤の条件を満たしていないとみなし、復職後の有給休暇取得を使用者が認めず欠勤扱いとした事例です。
最高裁第一小法廷平成25年6月6日判決
出勤率の要件は、労働者の責めに帰すべき事由による欠勤率が高い者を有給休暇付与の対象から除外する趣旨で定められたものと解される。これに対し、無効な解雇のため就労できなかった本件は、使用者の責めに帰すべき事由に該当するため、労働基準法第39条における出勤率の算定に当たっては、請求の前年度における出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれ、有給休暇の成立要件を満たしているとの考え方が示された。
これらの裁判例を見ると、有給休暇におけるトラブルの防止には、有給休暇の成立要件を満たしているか、有給休暇を取得させるべきでない特段の事情があるか、という観点を適切に判断していくことが求められると言えるのではないでしょうか。そして、法改正を受けて今後は有給休暇の消化管理も求められるため、過去の連載も振り返りながら、有給休暇について整理してみてはいかがでしょうか。
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執筆者プロフィール

大東恵子氏(特定社会保険労務士)
大学卒業後、日商岩井株式会社(現在の双日株式会社)に入社。1997年に同社を退職後、独立。現在、東京、大阪をはじめとする5拠点に展開する、あすか社会保険労務士法人の代表社員として活躍中。社会保険手続きや給与計算はもちろん、企業の労務管理を総合的に支援している。
http://www.all-smiles.jp/
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