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帰宅困難者対策の実例

2026年1月23日更新

企業に必要な防災対策

帰宅困難者対策の実例

[廣井 悠氏(東京大学教授、博士(工学)、専門社会調査士)]
防災コラムを担当しております、東京大学の廣井です。
前回は、帰宅困難者対策の必要性とその大原則についてご説明しました。
今回からは、帰宅困難者対策の実例をより具体的にご紹介したいと思います。

帰宅困難者対策のメニューは、「一斉帰宅の抑制」、「一時滞在施設の確保」、「帰宅支援」、「正確な情報共有体制の構築」の4種類に大別することが多いのですが、このうちの「一斉帰宅の抑制」と「一時滞在施設の確保」は、事業所に大きく期待が寄せられています。

なかでも最重要な対策メニューが「一斉帰宅の抑制」です。
一般に、災害時における事業所の役割は、以下の3種類が考えられます。

①二次災害の防止や従業員・顧客の安全確保を代表とした「防災対策」

②重要業務の絞り込みや早期復旧・早期復興を実現させる「事業継続(BCP)」

③社会貢献などを代表とする「地域や被災者の支援(CSR)」

このなかで、一時滞在施設の確保は③の「地域や被災者の支援」に該当するのみですが、一斉帰宅の抑制は、従業員の命を守るという意味で①の「防災対策」、帰宅困難者への支援や渋滞・過密空間の課題解決という意味で③の「地域や被災者の支援」の両方に該当します。

では、事業所による一斉帰宅の抑制には、具体的にどのような準備が必要となるでしょうか。

一斉帰宅の抑制のために、事業者に必要なこと

たとえば、前々回のコラムでも言及した東京都による帰宅困難者対策条例では、事業者の努力義務として、従業員の一斉帰宅の抑制に関する環境整備(約3日分の飲料水・食料等の備蓄等)、従業員との連絡手段の確保・安全確保、そして駅前や大規模集客施設においては利用者の保護などを役割としています。
これは、罰則こそないものの、災害時に事業者が行なうべき義務とされています。

しかしながら、一口に「一斉帰宅の抑制に関する環境整備」と言っても、強い揺れが襲った後などの災害時に、従業員を滞留させることには少なくない困難を伴います。
そこで参考にしたいのが、東京都による一斉帰宅抑制推進企業認定制度です。
これは、大規模地震発生時の従業員の一斉帰宅抑制についてユニークな工夫や積極的な取り組みをしている企業等を「一斉帰宅抑制モデル企業」「一斉帰宅抑制推進企業」として選定し、その取り組み事例集をホームページで公開するものです。
特に大企業のみではなく、中小企業での取り組みも含めて豊富な事例を紹介している点が特徴です(1)

ここでは、この事例集よりいくつかの取り組みを紹介してみましょう。

たとえば、三谷産業株式会社さんは、水や食料などを社内に1週間分備蓄し、社員の自宅にも配付する、来客者のための非常用持ち出し袋を215人分用意する、災害を想定した訓練を年に6回、全社員で実施するといった取り組みをされています。
また、株式会社ディスコさんは、カードオペレーションによるユニークな災害対応訓練や、BCPポイント制度の導入、社員に会社の近隣に居住することを推奨といった対策を実施されています。

他方で、医建エンジニアリング株式会社さんは、アレルギー対応食品を準備する、備蓄物資の保管場所を変えてリスクヘッジを図る、社用車に防災グッズを備えて外出先でもその場で対応ができるようにするなどの工夫をされています。

紙幅の都合ですべての事例を紹介できませんが、このように会社特性や立地特性に合わせた取り組みを各社がされておりますので、ぜひとも参考にしてください。

個人がやっておくべき帰宅困難者対策

一方で、一斉帰宅の抑制は企業のみならず、帰宅困難者になりうる個人の役割も重要です。特に、帰宅困難者となりうる従業員については「帰宅しないための環境づくり」を自社で徹底する必要があります。
たとえば、自社に準備する備蓄物資も、水、食料、毛布などは事業所が用意する場合が多いかもしれませんが、常備薬など状況に応じて個人が用意すべき必要な備蓄物資もあります。

それから、忘れがちである重要な備蓄物資として、携帯ラジオがあります。
大都市においては大規模災害時、状況次第で職場付近に最大3日間滞留する可能性もあることから、通信ネットワークが途絶された場合にも有効な災害情報の収集手段があると安心です。

災害情報関係では、個人の準備として安否確認も重要でしょう。
また、事前の知識の備えも重要です。
たとえば、就業地の災害リスクや一時滞在施設の場所、帰宅ルールなどはできるだけ事前に知っておく必要があります。

最後に「家庭の安全」も重要な事前対策と考えられます。
事業所に留まる環境整備をどんなに行なっても、自宅が脆弱な場合、家族を心配して帰宅するのは人間として当然の判断です。
したがって、家具の固定や耐震化、不燃化、幼稚園や保育園と災害時の子供の安全確保や引き渡しについて確認しておく行動は、個人がやっておくべき重要な帰宅困難者対策と言っても過言ではありません。

平穏なときこそ、万一の災害に備えて

2025年12月末に内閣府が発表した新しい首都直下地震の被害想定では、1都4県で最大約840万人の帰宅困難者が想定されるなど、首都圏に通勤する多くの方が帰宅困難者となってしまう事態が想定されています。
また、このうち要配慮者(高齢者、障害者、乳幼児などの非難が困難な人々)は約250万人であることが計量されており、これらについては特に丁寧な対処が必要と考えられます。


本稿では、企業が備えておく備蓄物資として東京都条例に基づき、水や食料や毛布、そして携帯ラジオなどに触れました。
要配慮者の存在を考慮した場合、基本8品目(食料、大人用おむつ、毛布、携帯トイレ・簡易トイレ、乳児用粉ミルクまたは乳児用液体ミルク、トイレットペーパー、乳児・小児用おむつ、生理用品)と呼ばれる、被災者の命と生活環境に不可欠な物資の準備も、状況次第では必要になってくるかもしれません。


補注

(1)2024年度からは、「事業所防災リーダー優良企業認定制度」と対象を拡大して実施している。

執筆者プロフィール

廣井 悠氏(東京大学教授、博士(工学)、専門社会調査士)
東京大学・教授。1978年10月東京都文京区本郷生まれ。
慶應義塾大学理工学部卒業、慶應義塾大学大学院理工学研究科修士課程修了を経て、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻・博士課程を2年次に中退し、同・特任助教に着任(東京大学・消防防災科学技術寄付講座)。2012年4月名古屋大学減災連携研究センター准教授、2016年4月より東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻准教授を経て、2021年8月から同・教授。2023年4月から東京大学先端科学技術研究センター・教授を務める。
博士(工学)、専門社会調査士。専門は都市防災、都市計画。

大都市防災が、大都市の日常をもっとよくする。| ほぼ日
https://www.1101.com/n/s/bosai_hiroi/index.html

「首都直下地震・新被害想定」われわれは何をすればよいのか? | エキスパート - Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/fef224d89187b362e4ff20ea545a287c4b441b31
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