前回は、帰宅困難者対策の実例として、一斉帰宅抑制の必要性を具体的にご紹介しました。
今回は、一斉帰宅抑制を行なううえで重要な注意点について記述したいと思います。
昨年(2025年)は、大船渡市や今治市における林野火災や大分市佐賀関における大規模火災、香港では大規模な建物火災など、甚大な火災が相次いだ年でした。
これは強風や乾燥などによる気象条件もありますが、少子化・高齢化やそれに伴う人口減少などによる地域社会の脆弱化もその一因であると筆者は見ています。
そこで、このような 火災対策と帰宅困難者対策との関係 について見ていきたいと思います。

このようなビルやマンションなどの中高層建物は、木造密集市街地等に比べて相対的に地震火災リスクが低いと考えられ、防火対策についてそれほど事業所や個人が注意を払わなくてもよいかもしれません。
しかしながら、平時はともかく、地震時は注意が必要となります。
というのも、建築基準法と消防法令において、地震時の火災は想定外となっており、既存の防災マニュアルには掲載されないことが多いからです。
それゆえ、地震時に従業員等を安全に管理する義務のある事業所は、地震の揺れによって被害を受けている、もしくは受けている可能性のある中高層建築物について、事前に、下記に示すような4つの可能性について考えておくとよいと思われます。
1つめの可能性 は、地震による揺れの被害や緊急時の移動経路確保等により、消防用設備や防火設備が使えず、平常時に中高層建物が有している高い防火安全性能が失われている、という可能性です。
2つめの可能性 は、長時間の電源供給の途絶があった場合、自動火災報知設備が機能しなくなる可能性もあり、火災の早期発見と早期避難も困難になるかもしれない、という点です。
たとえば、消防法令に基づく消防用設備等の非常電源容量は、屋内消火栓設備30分以上、スプリンクラー30分以上、自動火災報知設備10分以上、誘導灯20分以上(一部は60分以上)、連結送水管2時間以上(消防隊が消火できなくなる)、非常用照明30分以上と決められています。
ということは、ここに定められている時間以上の長時間停電があった場合は、上記に示した1つめの可能性が該当しなくても(つまり、壊れていなくても)、自動火災報知などの機能が期待できない場合もあるかもしれないのです。
3つ目の可能性 が、破壊や停電に伴ってエレベーターが停止すると、上層階から地上への避難や上層階への救助が難航する可能性が出てくる、ということです。
こうなると避難・救助のどちらもが狭い非常用階段の使用を強いられ、迅速な避難行動などができなくなる可能性があります。
最後の可能性 が、揺れ被害によって非耐力壁(建物を直接支えていない通常の壁)が損傷し、延焼が拡大すると共に、ドアなどが開かなくなって避難障害が発生する可能性です。
こうなると、バールでこじ開けるなど助け合いが重要ですが、近隣の事業所との付き合いが希薄であったり、防音性が高かったりすると救助の有無すらお互いに把握できません。
このような可能性を考えると、地震直後に中高層建築物に滞在するという行為(帰宅抑制のために、従業員等を施設内に待機させる行為)は、ある程度の危険性を伴うものと言えます。
そのため地震直後の建物滞留時にあたっては、建物の躯体や非構造部材による耐震性のチェック(1)のみならず、次のような対策が必要と考えられます。
|
①消火設備・防火設備や避難経路をチェックする |
|
②カセットコンロやろうそくは室内でできるだけ使わない |
|
③出火時の対応(避難方法・経路など)を考える |
図 鉄筋コンクリート造用チェックシート(低層・壁式構造) 第一次調査の例(1)より引用

出典:首都直下地震帰宅困難者等対策 連絡調整会議 一時滞在施設の確保及び運営のガイドライン(首都直下地震帰宅困難者等対策連絡調整会議)
https://www.bousai.go.jp/jishin/syuto/kitaku/pdf/guideline06.pdf
補注
https://www.bousai.go.jp/jishin/syuto/kitaku/pdf/guideline06.pdf
(1)建物の耐震性チェックについては、図などのチェックシートを活用するとよいものと考えられます。
参考文献1.内閣府:災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン、2026.01
https://www.bousai.go.jp/jishin/kitakukonnan/pdf/kitakukonnan_guideline.pdf








