厚生労働省の「治療と就業の両立支援指針」を踏まえ、企業には社内の環境整備や必要な支援措置を講じることが求められます。
本コラムでは、本改正の背景と企業に求められる実務対応について解説します。
(1)制度の背景と努力義務の内容
近年の医療技術の進歩により、たとえば、かつては「不治の病」とされていたがん等の疾病においても生存率が向上し、「長く付き合う病気」へと変化してきています。そのため、労働者が疾病に罹患した場合でも、直ちに離職しなければならないとは限らず、治療を継続しながら働くことを希望する労働者は、今後さらに増加することが予想されています。
こうした状況を踏まえ、労働施策総合推進法の改正により、2026年4月1日から、すべての事業主に対して「治療と仕事の両立支援」に関する体制整備が努力義務として課されることとなりました。
具体的には、企業において次のような環境整備が求められます。
【治療と仕事の両立支援を行なうための環境整備】
①事業主による基本方針の表明等と労働者への周知
②研修等による意識啓発
③相談窓口等の明確化
④治療と仕事の両立支援に関する制度、体制等の整備
⑤事業場内外の連携
(2)具体的な取組み内容
①事業主による基本方針の表明等と労働者への周知
まず、事業主として治療と仕事の両立支援に取り組む旨の「基本方針」を策定し、労働者へ周知することが求められます。
②研修等による意識啓発
治療と仕事の両立支援を円滑に実施するためには、制度を整備するだけでなく、職場全体の理解を深めることが重要です。
そのため、当事者となり得る労働者だけでなく、上司や同僚を含めたすべての労働者を対象に、治療と仕事の両立に関する研修等を実施し、意識啓発を行なうことが望まれます。
③相談窓口等の明確化
治療と仕事の両立支援は、労働安全衛生法に基づく健康診断などで把握される場合を除き、原則として労働者本人からの申出を起点として対応が行なわれます。
そのため、労働者が安心して相談や申出を行なえるよう、相談窓口を明確にしておくことが重要です。
また、申出があった場合の情報の取扱いについても整理し、病状などのセンシティブな情報の管理方法や共有範囲を明確にしておくことも大切です。
治療と仕事の両立を支援するためには、休暇制度や勤務制度の整備も重要です。
各事業場の実情に応じて、たとえば次のような制度の導入や活用が考えられます。
【休暇制度の例】
・時間単位の年次有給休暇
・傷病休暇
・病気休暇 など
【勤務制度の例】
・時差出勤制度
・短時間勤務制度
・在宅勤務制度
・試し出勤制度 など
⑤事業場内外の連携
治療と仕事の両立支援を進めるにあたっては、事業場内だけでなく、外部機関との連携も重要です。
産業医や産業保健スタッフ、主治医と連携しながら就業上の配慮を検討するほか、必要に応じて、医療ソーシャルワーカーや看護師などの医療関係者の支援を受けることも考えられます。
(3)具体的な両立支援の進め方
①本人の意向確認
まずは、本人がどのように両立を希望しているのかを確認します。
症状や治療方法は個人差が大きいので、個別事例の特性に応じて配慮を行ないましょう。
就業継続の可否や必要な就業上の措置については、医師の意見聴取が重要となります。
主治医からの情報が不十分な場合には、本人の同意を得たうえで追加情報を収集し、産業医等の意見も踏まえて判断します。
厚生労働省から、主治医意見照会書や両立支援プラン等の様式例も公表されているため、これらを参考に社内の支援フローを整備しておくことが有効です。

※参考として(出所:治療と仕事の両立について /厚生労働省)
「勤務情報を主治医に提供する際の様式例」https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001661996.pdf
「治療の状況や就業継続の可否等について主治医の意見を求める際の様式例」
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001661999.pdf
「職場復帰の可否等について主治医の意見を求める際の様式例」
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001662001.pdf
「両立支援プラン/職場復帰支援プランの作成例」
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001225763.pdf
③安全と健康の確保
就業によって疾病の増悪や再発が生じないよう、就業場所の変更、業務内容の変更、労働時間の短縮、深夜業の回数の調整などを検討します。
なお、業務の繁忙を理由に必要な配慮を行なわないことは適切とはいえません。
④両立支援プランの作成
就業継続が可能と判断された場合は、両立支援プランを作成します。
プランでは、治療状況や通院予定、就業上の措置の内容と期間、フォローアップ方法などを整理し、定期的な見直しを行なうことが重要です。
今回の努力義務化は、企業に対し新たな義務を課すというよりも、これまで個別対応にとどまりがちであった両立支援について、組織として適切に対応していくための体制整備を促すものといえるでしょう。
まずは、相談窓口の明確化や制度の棚卸し、管理職への周知など、できるところから体制整備を進めてみてはいかがでしょうか。
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001667374.pdf









