本コラムでは、企業防災のなかでも特に帰宅困難者対策に焦点を絞っていますが、企業総務や防災担当者が知っておくべきことの一つに「一時滞在施設」がありますので、ご説明します。
一時滞在施設とは
前々回に詳しくご紹介した「一斉帰宅の抑制」によって従業員の多くが企業内滞留に成功したとしても、大都市中心部には買い物客や観光客なども多いことが知られており、公共交通機関がマヒした場合には、彼らの留まるスペースをできる限り確保する必要があります。また、従業員の一斉帰宅抑制についても、大地震発生時には強い揺れによって職場の建物が壊れる、あるいは余震で被害を受けるという可能性も考えられ、彼らのための滞留スペースも必要です。
たとえば、2025年12月に内閣府が発表した新しい首都直下地震の被害想定では、1都4県で最大約160万人の「行き場のない帰宅困難者」が想定されるなどその数は膨大であるため、行政は現在、彼らを受け入れる「一時滞在施設」の確保を進めています。
一時滞在施設という用語は聞きなじみがないかもしれませんが、これは2011年に発生した東日本大震災をきっかけとして、わが国の大都市で指定されるようになった施設です。
自治体の施設や学校のほか、オフィスビル・民間企業も行政と協定を結び、一時滞在施設を設置しています。
一時滞在施設の条件
筆者も検討に関わった内閣府による「災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン(令和8年1月)」では、この一時滞在施設は床面積3.3㎡(1坪)あたり2人の帰宅困難者を最大3日程度まで滞留させることを基準と定めています1)。一時滞在施設に求められる条件としては、新耐震基準を満たした建物であるなど構造物の耐震性はもちろん、余震の発生を踏まえて天井や什器、ガラスなどの非構造部材についても安全で(場合によっては立ち入り禁止区域等を設定し)、万一の際に避難場所までの緊急避難が容易であるなどの地域特性・施設特性を満たしたものである必要があります。
また、災害直後の情報伝達が困難であることを考慮すると、地区単位での誘導などが迅速になされるよう、一時滞在施設の名称や所在地は事前に公表することが望ましいとされています。 東日本大震災以降、全国の大都市中心部では、この一時滞在施設を積極的に確保しようとする動きがみられます。
しかしながら、一時滞在施設の考え方は地域によっても異なります。
たとえば、大阪市は東京都と異なり、従業員は帰宅抑制の対象としていますが、買い物客などの帰宅抑制は義務としていません。
そのため、どうしても帰ることのできない人へのセーフティネットとして、主要駅を中心に「一時滞在スペース」が確保されつつあります。
災害発生時に原則として翌朝まで滞在でき、可能な範囲でトイレ・水道水等の提供が受けられるスペースです2)。

一時滞在施設の運営
以降では、一時滞在施設の運営についても具体的に説明します。民間企業であっても、地域社会の一員として防災を考えた場合に、ビルや工場施設などを「一時滞在施設」として提供する選択肢があるかもしれません。
※東京都の場合、協力事業者への支援制度や補助金が用意されています。
一般的に一時滞在施設の運営は、次の5点に大別されます。
1. 滞留者の管理
2. 滞留場所の確保・管理
3. 物資の管理
4. 協定などの締結
5. 要員の確保
ここでは前者の3点に絞り、説明したいと思います。2. 滞留場所の確保・管理
3. 物資の管理
4. 協定などの締結
5. 要員の確保
一時滞在施設の支援対象者は、主に買い物客など「行き場のない帰宅困難者」と考えられます。
このため、組織的な行動を期待することは困難であり、彼らの管理はとりわけ重要となります。
彼らの受け入れにあたっては、一時滞在施設開設の周知、家族との安否確認の奨励、帰宅困難者への滞留マニュアル・注意点の配布や広報(後発地震時の行動規範を含む)、受け入れを実施する自社従業員へのマニュアルや事前訓練・指揮系統の確立などが必要とされます。
特に一時滞在施設開設の周知については、次のような施設の開設基準を施設の入り口などにわかりやすく掲示する必要があります。
・受け入れ人数や受け入れ予定日数
・閉鎖の可能性があること
・提供する物資
・要援護者の優先
・施設管理者の指示に従うこと
・施設管理者が責任を負えない場合もあること など
滞留場所の確保や管理については、滞留場所の巡回・管理やマナーの呼びかけ、滞留場所とそうでない場所の明確化や周知、出口の限定と出口付近の管理、高齢者や乳児・女性への配慮、従業員と受け入れ希望者のスペース分割、急病人発生時など万一の事態に備えた対応計画などが考えられます。
たとえば、負傷者の対応場所や要援護者の滞留場所、情報を提供する場所など、きめ細かいスペース分割も有効でしょう。
物資(備蓄品)の管理は、「受け入れ希望者へ配布する支援物資」と「一時滞在施設の運営に必要な資器材」に分けることができます。
前者は、水や食料、カイロ、毛布、救急グッズ、懐中電灯、ラジオなどが挙げられるでしょう。
後者については、非常用電源はもちろん、運営担当者の作業用として机・椅子や無線機、また受け入れ希望者への情報提供用として周辺地図や広域地図、メガホン、メモ用紙、ホワイトボード、マーカーなどが必要となります。
これらは一時滞在施設でどのような支援を行なうかによっても大きく異なるため、個々に挙げた行政による資料1)・2)・3)を参考にして訓練等を行ないつつ、その都度チェックするとよいでしょう。
以上のように、一時滞在施設の運営をみてみると、その業務はきめ細やかで臨機応変な対応が求められるハードルの高いものです。
しかし、災害などの非常時にあって、従業員の安全を守る義務(自助)に加えて、地域社会との助け合い(共助)、さらには行政と協力した公助の一翼を担うことは、非常に大きな社会的意義を持つことです。
まずは、来たるべき災害に備える行政の取り組みを知り、企業としてできること・やるべきことを考えていくことが大切です。
参考文献
1) 内閣府:災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン,2026.01
https://www.bousai.go.jp/jishin/kitakukonnan/pdf/kitakukonnan_guideline.pdf
2) 大阪市:一時滞在スペース運営マニュアル,2021.3
https://www.city.osaka.lg.jp/higashiyodogawa/cmsfiles/contents/0000533/533363/itiji.pdf
3) 東京都総務局総合防災部:都立施設を活用した一時滞在施設の運営マニュアル ver.5,2026.01
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/006/591/ichitaimanyuaru5.0.pdf
1) 内閣府:災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン,2026.01
https://www.bousai.go.jp/jishin/kitakukonnan/pdf/kitakukonnan_guideline.pdf
2) 大阪市:一時滞在スペース運営マニュアル,2021.3
https://www.city.osaka.lg.jp/higashiyodogawa/cmsfiles/contents/0000533/533363/itiji.pdf
3) 東京都総務局総合防災部:都立施設を活用した一時滞在施設の運営マニュアル ver.5,2026.01
https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/006/591/ichitaimanyuaru5.0.pdf








