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災害時の困難を図上で体験!帰宅困難者支援施設運営ゲーム(KUG)を活用しよう

2026年4月20日更新

企業に必要な防災対策

災害時の困難を図上で体験!帰宅困難者支援施設運営ゲーム(KUG)を活用しよう

[廣井 悠氏(東京大学教授、博士(工学)、専門社会調査士)]
防災コラムを担当しております、東京大学の廣井です。
これまで本コラムでは、企業防災のなかでも特に帰宅困難者対策に焦点を絞り、対策の大枠を紹介してきました。
今回は本コラムの最終回として、企業の方が具体的に帰宅困難者対策を検討するための図上訓練キット「帰宅困難者支援施設運営ゲーム(KUG)」について、お伝えしたいと思います。

帰宅困難者支援施設運営ゲーム(KUG)とは

防災分野には、静岡県が開発した避難所運営ゲームHUG(ハグ)と呼ばれるワークショップツール(開発:静岡県)があります。
これは災害発生時の「避難所運営」に焦点を当てて、避難所運営を疑似体験しながら実践的な対応を考えるツールとして防災学習に広く活用されています。 このHUGを参考に、「帰宅困難者」に焦点を当てたものが帰宅困難者支援施設運営ゲーム(KUG) で、東京大学廣井研究室およびSOMPOリスクマネジメントが作成しました。
前回までに紹介した「帰宅困難者支援施設」の運営を体験しながら、帰宅困難者対策を考えるツールで、2025年にはジャパン・レジリエンス・アワード(強靱化大賞・最優秀賞)を受賞 しています。

これまでのコラムでも記述したとおり、帰宅困難者対策は被害の規模や発災の時間帯・場所・季節によって、その必要性やメニューは大きく異なる点が特徴的です。
さらに、帰宅困難者への対応を考えようとする場合、会社特性や地域の事情によって対策は千差万別であるため、地域内ですら一律に通用するマニュアルは存在しません。
そこで、架空の事業所の「BCP要員」となって、災害直後に社内に人を滞留させる図上訓練を行なうことが実効性のある対策を考える鍵ではないか、という問題意識から開発されたのがこのキットです。

このゲームには、大別して一時滞在施設を運営する企業向けのKUG①と、従業員の帰宅抑制を検討するKUG②の2パターンが用意されているので、それぞれ簡単に説明しましょう。

KUG①とは

まずKUG①ですが、運営する帰宅困難者支援施設で、買い物客や観光客など行き場のない帰宅困難者を受け入れようとする企業を対象 としたものです。

実際の施設図面をもとにして、滞在場所のレイアウトや動線、受付の位置などから、支援要員が何人必要か、どのような手段や準備が必要かを考えることができるようになっています。
もし施設図面が準備できない場合は、キットで準備しているモデル図面を使って、架空の施設で運営を体験することも可能です。

そしてこの検討結果を使って、受入れマニュアルを作ったり、修正したり、何人受け入れることができるか、あるいはそもそも帰宅困難者を受け入れることが可能かどうかを検討していただくことをイメージしています。

キットの内容は、大きく分けて下図のように、①施設平面図(モデル施設)、②帰宅困難者カード、③帰宅困難者コマ、④イベントカードの4種類のアイテムで構成されています。
ゲームは図面上に帰宅困難者コマを配置しつつ、帰宅困難者カードを用意してイベントカードを引いていく形で進みます。
イベントカードとは、帰宅困難者の受入れ後に施設内外で発生する「イベント」を記載したものです。
このカードをめくることで、地域特性にあった施設の運営方法や帰宅困難者への対応方法を検討することができます。
イベントカードは32枚用意されており、このなかから施設特性に合ったものを選んで用いていただくことを想定しています。

具体的には、
従業員(課長クラス)の子供と友人(中学生)計8人が、近くまで遊びに来ていて帰れなくなったので保護を求めてきました。必要な対応を検討してください。
複数の女性従業員等から要望です。「疲れたので仮眠をとりたいが、まわりに男性がいると落ち着いて眠れない。何とかならないか?」
ビルの管理会社から下層階で下水管が詰まっているとの連絡が入ってきました。
など、災害時に予想される混乱を記したイベントが準備されており、プレイヤーは施設運営者として相談しながら順番に対応していきます。

KUG②とは

一方、KUG②は従業員の帰宅抑制を検討する一般企業を対象としたものです。
今いる建物において、従業員の安全を確保することを主なミッションとしており、KUG①よりもだいぶシンプルなものになっています。

具体的には帰宅困難者コマは使用せず、下図の「滞留方針検討シート」を用いて施設の滞留方針を決めたうえで、イベントカードを引いていきます。
状況に応じて滞留方針を変更して、企業の対策方針やマニュアルのブラッシュアップに活かす仕組みとなっています。

災害シナリオごとに、どこに滞在してもらうか、備蓄物資をどう分けるか、事前にどのような準備をしておけばよいかなどについて、チェックシートを用いて滞留方針を考えることができます。

図上訓練から得られる4つのメリット

この図上訓練キットでワークショップを行なうことで、企業には 4つのメリット があると考えられます。

1つめのメリットは、被災地の建物に一定期間滞在することのイメージ力を高め、従業員間およびその家族も含めて現実感と実現可能性を共有することができる点です。
訓練で遭遇する様々なイベントを経て、無理に帰宅せず安全に留まることの大切さを学ぶ機会にもなります。

2つめのメリットは、企業固有の対策が検討できる点です。
現在、帰宅困難者を企業に滞留させるための方法については、内閣府などでガイドライン1)を示しているところですが、残念ながらそれは個別の地域特性や企業特性に沿ったものではありません。
KUGを行なうことにより、自社独自のルールやマニュアルを作ることができ、事業継続との接続も図ることができます。

3つめが、災害時の様々な状況を図上で試すことができる点です。
残念ながら、自然災害による被害は多様であるため、過去や事前の被害想定とまったく同一の災害は発生しません。
このようななかで、このツールを様々な状況下で試すことにより、どのような被害状況にもそれなりに対応できる「学力」のようなものを養うことができます。
これは企業防災全般に言えることですが、一般に災害時のルールは決めつけ過ぎても、イメージの固定化になってしまうことが課題として知られています。
したがって、できる限りその場の状況に応じたフレキシブルなマニュアルを作る必要があり、本キットはその作成に寄与できます。

最後の4つめが、優先順位の検討ができる点です。
2011年に発生した東日本大震災時の東京都内は最大震度5強 でしたが、これよりも大きな揺れ、具体的には震度6強や震度7などの場合は、対策を事前に決めていたところで何もかもがその通りにできるわけではありません。
必然的に優先すべき事項から対応していくことになるため、事前に優先順位を定めておくことは重要な作業となります。

まとめ

一斉帰宅の抑制にしても一時滞在施設の開設にしても、災害直後に企業内に帰宅困難者を滞在させることは簡単なことではありません。
一方で、各企業で行なわれている帰宅困難者対応の実動訓練は、手続きの確認にはよいのですが、少なくない労力を必要とします。
したがって、実動訓練と比べて負荷がそこまでかからない図上訓練を使って様々なパターンをチェックしておくことは、現実的に有効な対策方針と考えられるのです。

今回紹介したKUG①もKUG②も、少数メンバー(5人~10人ほど)かつ2~3時間で、従業員の帰宅抑制や行き場のない帰宅困難者の受入れを模擬的に検討することができます。
すでに東京都や大阪市、京都市、札幌市などをはじめとして、数多くの企業や協議会で使っていただいています。
▼KUGをやってみよう! | ほぼ日

下記のホームページから無料でダウンロード・使用できますので、興味のある方はぜひご利用ください。
参考文献
1) 内閣府:災害発生時における大規模な帰宅困難者等の発生への対策に関するガイドライン,2026.01,
https://www.bousai.go.jp/jishin/kitakukonnan/pdf/kitakukonnan_guideline.pdf
執筆者プロフィール

廣井 悠氏(東京大学教授、博士(工学)、専門社会調査士)
東京大学・教授。1978年10月東京都文京区本郷生まれ。
慶應義塾大学理工学部卒業、慶應義塾大学大学院理工学研究科修士課程修了を経て、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻・博士課程を2年次に中退し、同・特任助教に着任(東京大学・消防防災科学技術寄付講座)。2012年4月名古屋大学減災連携研究センター准教授、2016年4月より東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻准教授を経て、2021年8月から同・教授。2023年4月から東京大学先端科学技術研究センター・教授を務める。
博士(工学)、専門社会調査士。専門は都市防災、都市計画。

大都市防災が、大都市の日常をもっとよくする。| ほぼ日
https://www.1101.com/n/s/bosai_hiroi/index.html

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