2026年8月から、自己負担限度額の引き上げや年間上限額の創設など、制度の見直しが行なわれました。
本コラムでは、制度の概要と見直しの内容、人事・労務担当者が押さえておきたいポイントを解説します。
(1)高額療養費制度とは?
高額療養費制度とは、病気やけがの治療で医療費が高額になったとき、1か月の窓口負担が一定の自己負担限度額を超えた場合に、その超えた額が支給される制度です。自己負担限度額は、年齢や所得に応じて異なります。
高額療養費の支給を受けるには、加入している協会けんぽや健康保険組合などの保険者へ「高額療養費支給申請書」を提出し、支給決定後に自己負担限度額を超えた額が指定口座へ振り込まれます。
なお、協会けんぽでは、診療を受けた月からおおむね3か月後に、高額療養費支給申請書が被保険者(従業員)の自宅へ送付されます。
申請書が届いたら必要事項を記入し、協会けんぽへ提出することで支給を受けることができます。
一方、健康保険組合では申請方法や支給方法が異なる場合がありますので、加入している保険者へ確認しましょう。

(2)2026年8月からの主な変更点
2026年8月からの主な変更点は以下の3つです。①月額の自己負担限度額が引き上げに
②【新設】年間での負担を抑える「年間上限額」がスタート!
③長期療養者(多数回該当)の限度額は「据え置き」
①月額の自己負担限度額が引き上げに
今回、物価や賃金の上昇に加え、医療技術の高度化、高額な医薬品の普及、高齢化に伴う医療費の増加などを背景として、月額の自己負担限度額が引き上げられました。そのため、入院や手術などにより一時的に高額な医療費がかかった場合には、これまでよりも自己負担が増える可能性があります。
具体的には、1か月(毎月1日から末日まで)当たりの自己負担限度額が、すべての所得区分で次のとおり引き上げられました。
□自己負担限度額の変更(70歳未満の場合)
| 所得区分 | 標準報酬月額 | 旧自己負担限度額 (~2026年7月) |
新自己負担限度額 (2026年8月~) |
|---|---|---|---|
| 区分ア | 83万円以上 | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% | 270,300円+(医療費-901,000円)×1% |
| 区分イ | 53万円~79万円 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% | 179,100円+(医療費-597,000円)×1% |
| 区分ウ | 28万円~50万円 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 85,800円+(医療費-286,000円)×1% |
| 区分エ | 26万円以下 | 57,600円 | 61,500円 |
| 区分オ | 住民税非課税で、区分ア、イに該当しない人 | 35,400円 | 36,900円 |
医療費の総額が100万円の場合、従来の自己負担限度額は、
80,100円+(100万円-267,000円)×1%=87,430円でした。
改正後は、85,800円+(100万円-286,000円)×1%=92,940円となり、
自己負担が5,510円増えることになります。
「負担が増えてしまうのでは……」と不安に感じる人もいるかもしれません。
しかし、今回の見直しでは、長期にわたって治療を受ける人の負担が過重にならないよう、新たな救済策も設けられました。
次に、その「新ルール」を確認していきましょう。
②【新設】年間での負担を抑える「年間上限額」がスタート!
これまでは「1か月ごとの自己負担額」に上限が設けられていましたが、今回の改正では、それに加えて「1年間の自己負担額」にも上限が設けられました。長期間にわたり抗がん剤治療や人工透析などを受ける人は、毎月の自己負担が続くため、この年間上限が適用されることで負担軽減につながります。
毎年8月から翌年7月までの1年間について、高額療養費適用後の自己負担額を合計し、所得区分ごとに定められた年間上限額を超える場合には、上限を超えた負担が生じないよう調整されます。
具体的な精算方法や手続きについては、加入している協会けんぽ、健康保険組合などへ確認しましょう。
□自己負担の年間上限額(70歳未満の場合)
| 所得区分 | 標準報酬月額 | 年間上限額 |
|---|---|---|
| 区分ア | 83万円以上 | 168万円 |
| 区分イ | 53万円~79万円 | 111万円 |
| 区分ウ | 28万円~50万円 | 53万円 |
| 区分エ | 26万円以下 | 53万円(標準報酬月額が15万円以下は41万円) |
| 区分オ | 住民税非課税で、区分ア、イに該当しない人 | 29万円 |
高額療養費適用後の自己負担額の合計が年間53万円を超えた場合には、その超えた額について支給を受けることができます。

③長期療養者(多数回該当)の限度額は「据え置き」
高額療養費制度には、直近12か月以内に高額療養費の支給対象となった月が3回以上ある場合、4回目以降の自己負担限度額がさらに引き下げられる「多数回該当」という仕組みがあります。今回の見直しでは、月額の自己負担限度額の引き上げに伴い、多数回該当の限度額についても引き上げることが検討されていました。
しかし、がん患者団体などから、長期にわたり治療を続ける人の負担が大幅に増えることへの強い懸念が示されました。
こうした声を踏まえ、長期療養者への配慮策として、多数回該当の限度額については引き上げが見送られ、金額が据え置かれました。
多数回該当の回数は、原則として同じ保険者に加入している期間内で数えます。
そのため、国民健康保険から協会けんぽへ切り替わった場合や、転職により加入する健康保険組合が変わった場合などは、それまでの該当回数が引き継がれないことがありますので注意が必要です。
(3)押さえておきたい実務ポイント
高額療養費の手続きは、原則として従業員本人が、協会けんぽや健康保険組合など、加入している医療保険の保険者に対して行ないます。会社が申請する制度ではありませんが、従業員から入院や手術の相談を受けた際に、基本的な利用方法を案内できるようにしておくことが大切です。
事前に医療費が高額になることがわかっている場合には、次のような案内をするとよいでしょう。
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1.マイナ保険証を利用する場合
医療機関や薬局の窓口でマイナ保険証を提示し、「限度額情報の提供」に同意することで、窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えることができます。 原則として、事前の申請などは必要ありません。 |
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2.マイナ保険証を利用しない場合
加入している協会けんぽや健康保険組合などに対し、事前に「限度額適用認定証」を申請します。 交付された認定証を医療機関等の窓口に提示することで、窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えることができます。 |
差額ベッド代、入院時の食事代、先進医療に係る費用などは対象外となるため、従業員から質問を受けた際には、この点もあわせて案内できるようにしておきましょう。
高額療養費制度は会社が手続きを行なう制度ではありません。
しかし、人事・労務担当者が制度を理解し、適切な相談先や利用方法を案内できることは、従業員の安心につながります。
特に、傷病手当金や休職制度など、治療と仕事の両立支援に関する制度とあわせて案内できるよう準備しておくことで、従業員が安心して治療と仕事を両立できる職場づくりにつながるでしょう。









