消費者被害は一般に同種の被害が多数発生する一方、訴訟にかかる労力や費用との兼ね合い等から、個々の被害者が結果的に「泣き寝入り」になっていることが多いとされます。
そこで消費者庁は、簡易・迅速に消費者被害の回復を図ることを可能にする、新たな訴訟制度の導入を検討しています。
■ 2段階の訴訟手続き
「集団的消費者被害回復に係る訴訟制度」は、訴訟制度を次の2段階に分けています。
・共通争点に関する審理
特定適格消費者団体(以下、団体)が訴えを提起する段階です。多数の消費者と事業者との間に共通する争点について確認し、団体が勝訴すれば、次の段階に移行します。
・個別争点に関する整理
団体の通知・公告によって、被害を受けた個々の消費者が手続きへ加入します。加入者が集まった後、団体が事業者に対して請求する金額等をとりまとめて裁判所に提出し、簡易な手続きで個々の消費者に対する最終的な返還金額を決めます。
消費者は1段階目の手続きの結果(団体の勝訴)を見定めたうえで、手続きに加入するかどうかを判断できることになります。事業者にとっても、多数の消費者との間の紛争を効率的に解決できるというメリットがあります。
■ 対象事案
この制度の対象として、消費者と事業者との間に消費者契約が存在する場合の4つの請求権が想定されています(下表)。
■新たな訴訟制度の対象事案
(1)消費者契約が無効等の場合の不当利得返還請求権
(2)消費者契約に基づく履行請求権
(3)消費者契約の締結・履行に際してされた事業者の民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権
(4)消費者契約に債務不履行等がある場合の損害賠償請求権
ただし、このうち(3)、(4)については、金銭の支払いを目的とするもの、契約の目的(内容や対象)について生じた損害に係るものに限るとされます。たとえば、有価証券報告書の虚偽記載、個人情報の流出などによる被害は対象となりません。
また、人の生命・身体に損害が生じたときの当該損害に係るものは除かれます。被害者が多数でも、製品事故や集団食中毒といったケースは該当しないことになります。
消費者庁はこの制度の骨子についての意見募集を経て、平成24年通常国会に関係法案を提出すべく、作業を進めているところです。
対象範囲がいくらか限定されたとはいえ、この制度が導入されれば企業への影響も小さくなさそうです。