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国民と民族、その違いはどこにあるのか

2023年2月16日更新

国民と民族、その違いはどこにあるのか

『世界「民族」全史』序文解説より

PICK UP書籍:世界「民族」全史

(photo by by Rawpixel.com/Adobe stock)

「血統とその起源」から人類史を読み解き、好評を博している『世界「民族」全史』。本書は「ロシアとウクライナにみるような世界各地の民族紛争はなぜ起こるのか、なぜわかり合えないのか」「各地の民族はなぜその土地土地に存在し、これからどこへ向かおうとしているのか」といった疑問を、各民族の衝突と融合の歴史から浮き彫りにしています。

また、歴史は主に勝者の視点で語られますが、本書は中南米・アジア・アフリカ諸国の欧米に支配された民族の目線から見た歴史も踏まえ、最新の遺伝子学や考古学の成果を押さえて多元的に検証・解説することで、人類5000年の壮大な歩みがつかめるようになっています。ここでは、本書の序文解説を抜粋し、ご紹介します。

「国民」ではなく、「民族」の歴史こそ重要

「日本人」という言い方は日本国の国民を指すと同時に、日本民族を指します。一般的には後者の民族的な意味合いのほうが強いでしょう。では、「アメリカ人」はどうでしょうか。

「アメリカ人」はアメリカ合衆国の国民を指しますが、アメリカ民族を指しません。そもそも、アメリカ民族なるものは存在しません。「アメリカ人」というのは国民としての特徴によって分類されるカテゴリーであり、民族としてのカテゴリーではありません。アメリカ人は様々な民族の混合集団であるからです。

同じ「~人」という言い方でも、日本人という言い方には、民族的同一性を前提にする性格が強く反映され、アメリカ人という言い方には、国民的同一性を前提にする性格が強く反映されています。「~人」という言い方は、その集団が形成された歴史的背景によって、そのニュアンス、条件・定義が大きく異なります。

「国民」は国家に所属する構成員を指し、国家が定める法や制度などの外的特徴を共有しています。国民であることは民族的出自や宗教的信念を問いません。本書では、民族やその特性を解説しながら、国民ではなく、民族の歴史を読み解いていきます。

したがって、本書で、「~人」と表現した場合、その原初的な民族集団から派生した血脈全体を指します。そして、さらにそれらを細分化しながら、考察していきます。

「民族」は言語・文化・慣習などの社会的な特徴によって導き出されますが、それらが同一であれば、同一民族になるのでしょうか。仮に、白人や黒人が日本語を完璧に身に付け、文化や慣習においても日本人と同化すれば、彼らは「日本民族」になれるのでしょうか。

いかに、白人や黒人が日本人に同化したとしても、やはり「日本民族」ではありません。民族が異なるということ、つまり、血脈や血統が異なるということが大きな事実として横たわっているからです。「民族」は血脈や血統という前提が大きく入り込んだ概念として知覚されているのです。

国家における国民の中には、様々な民族が集います。本書では、各国における主要な民族や歴史的に大きな役割を果たした民族を取り上げ、考察していますが、決して悪意をもって、それ以外の多民族(つまり、国民としての集合体)を排除しようとしているのではありません。

また、今日の国別の単位に分けられないような民族をも、遡及的に見ていきます。

国家以前に、民族というものがあります。民族は最も原初的な社会単位です。アジア人がどこからやって来て、彼らがどのようにして、中国人、朝鮮人、日本人になったのか。白人がどこからやって来て、彼らがどのようにして、ドイツ人、フランス人、イギリス人になったのか。こうした民族としてのルーツを学校の歴史でも教えず、われわれはほとんど知りません。

日本は基本的に単一民族の歴史を歩んできた国民国家であるために、世界が経験したような民族対立もありませんでした。しかし、歴史とは、様々な民族が経験した衝突と融合の軌跡であるといえます。日本では、そのようなことを語ることはタブーとされ、口を閉ざしていれば、それで済んだのです。

現在、日本人は国際社会の中で、このような問題に否応なしに晒さらされ、それを避けて通ることはできなくなっています。世界の民族は多様な民族と混血したこともあり、その反動のゆえ、民族の血統・血脈を意識することを常態化させてきました。

たとえば、フランス人はフランク人の血統・血脈を引いていることを正統の証として、「フランク」を国名にしました。彼らは民族の血統・血脈について、教えられるまでもなく、感覚的に認知しています。そして、その「感覚」には、秘められた禁忌のイメージがどことなく付きまとっています。

民族の「血の記憶」、それぞれの民族が触れられたくないものもあるでしょうが、本書は、そのような秘められた禁忌に対し、徹底的にメスを入れるべく、世界の民族の歴史とその全貌を明らかにすることを目的にしています。

われわれは見ただけで、それぞれの民族をおおよそ判別できます。彼らの顔付きもそうですが、何よりも醸し出す雰囲気が異なります。その民族が持っている独特の雰囲気というのは歴史によって培われ、各人の遺伝子に刻まれたものです。

こうした「雰囲気」を決定づけるものは何か。その正体をつかみ、彼らが民族として歩んだ歴史の深層に迫ります。

学校の歴史教育などでは、こうした禁忌を避けるため、意図的に「民族」を教えず、「国民」という表象にのみ依拠して思考する習慣を身に付けさせます。われわれは知らずしらずのうちに、隠微な混濁の中に真の歴史を置き去りにしているのです。
著者プロフィール:

宇山卓栄(うやまたくえい)
1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。大手予備校にて世界史の講師として人気を博す。現在は著作家として活動。テレビ、ラジオ、雑誌など各メディアで時事問題を歴史の視点から解説するわかりやすさには定評がある。『「三国志」からリーダーの生き方を学ぶ』(三笠書房〈知的生き方文庫〉)、『世界一おもしろい世界史の授業』(KADOKAWA)、『日本の今の問題は、すでに世界史が解決している。』(学研)、『世界史で学べ! 間違いだらけの民主主義』(かんき出版)、『世界史は99%、経済でつくられる』(扶桑社)など、著書多数。

2023/1/20発行
四六判/並製
744頁

世界「民族」全史

「血統とその起源」から人類史を読み解く、まったく新しい世界史の本。中南米やアフリカ諸国など欧米に支配された民族の目から見た歴史も踏まえ、最新の遺伝子学の成果も押さえて多元的に解説。全民族・人類5000年の壮大な歩みがこの1冊でつかめます。
著者:宇山卓栄
価格:2,860円(税込)
ISBN:4-534-05977-2
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