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[第6回] 社長の覚悟と総務の汗がBCP(事業継続計画)に魂を入れる

2018年2月16日更新

元総務部長が語る「総務の仕事とは」

[第6回] 社長の覚悟と総務の汗がBCP(事業継続計画)に魂を入れる

[河西知一氏(特定社会保険労務士)]

平穏なときこそ〝緊急事態〟に備える

2011年に起きた東日本大震災を契機に、BCP(事業継続計画)への関心が全国で高まっています。

BCP(事業継続計画)とは、
企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法手段などを取り決めておく計画
のことです(中小企業庁ホームページより)。

もともと日本は世界でも有数の自然災害大国。夏は台風にゲリラ豪雨、冬は豪雪、そして地震、火山の噴火……。毎年のように土砂崩れや水害がくり返されており、北海道から九州・沖縄まで、あらゆる地域に被災地が点在している、といっても過言ではありません。

もし自社あるいは取引先が大きな災害に見舞われたら、会社が被る被害は甚大でしょう。しかしどんなことがあっても事業を継続していく。そのために備える。それが経営トップの責務です。
そして、これを実務面から支えるのが、総務担当者の仕事なのです。

災害は時間と場所を選びません。何事も起きていないときこそ、緊急事態を見据えたBCP(事業継続計画)を立てることが大切です。そして、災害などの発生と同時に「臨時委員会」(仮称)の設立を宣言できる体制を整えていただきたいと思います。
「臨時委員会」とは、緊急時に招集する〝臨時〟の意思決定機関です。

「臨時委員会」には当然、社長も参加しますが、実際の緊急時には社長が委員会に出席できないことも想定しておかなければいけません。たとえ社長が不在であっても、「臨時委員会」の決定は〝社長の決定〟であることを社内に周知しておく必要があります。
理想を申し上げれば、まず社長自らがBCP(事業継続計画)の策定を宣言し、強い覚悟のもと、緊急時において会社の舵取りを担う「臨時委員会」を作り上げていただきたいと思います。

BCPに「あり得ない」や「想定外」は禁句

ところで、どうして「災害対策委員会」等ではなく「臨時委員会」なのかというと、会社が備えるべき〝緊急事態〟は、自然災害に限らないからです。BCP(事業継続計画)は、事業の継続を阻むリスクとなりうるもの、そのすべてに備えるものである必要があります。

■事業を継続するうえで深刻なリスクとなりうるもの
  • 地震など自然災害
  • 交通機関の完全マヒ
  • 商品、あるいはサービスによる事故
  • 税制改正、規制緩和などによる経営環境の激変
  • インフルエンザなど流行性の病気の発症
  • 社長など重要役員の病気、突然死
  • 役員同士の争い
  • システムの故障、情報漏洩
  • パワハラ、問題社員、社員からの訴訟 など
これだけ多岐にわたるリスクに対処するわけですから、「臨時委員会」のメンバーは部門横断的に選ぶことが大切です。もちろん人事部長・総務部長の参画は必須です。
そして、必ずひとりは「法令が読める」人をメンバーに加えるべきでしょう。

大災害が起こると、政府はいち早く通達等を出して様々な対策を講じます。そうした情報を正確にキャッチするためには、法令を読んで自社のケースに当てはめて理解することが必要になってきます。
また、法令改正等によって生じる経営リスクに備えるためにも、「法令が読める」人材はたいへん貴重な存在です。

メンバーが決まったら、1年に1回は必ず「臨時委員会」を招集します。そして、緊急時に機能するように、想定される緊急事態をリストアップし、優先度の高いものから、緊急時の対処法やリスクを少しでも軽減するための施策を検討していきます。

このとき、「臨時委員会」のメンバーが絶対にしてはいけないことがあります。それは、「そんなことがあるわけない」と考えることです。
緊急事態が起きてしまってから、「あり得ないと思っていた」とか「想定していなかった」などという言い訳は、企業経営においては通用しないのです。

■BCP(事業継続計画)においてやってはいけない考え方
  • 当社の商品に欠陥があるわけがない→どんなに優れた商品も完璧ではない
  • あの会社は潰れない→大きな会社や老舗企業も潰れるときは潰れる
  • ライバルとなる会社はいない→時代は常に変化している
  • 社員から訴えられることはあり得ない→会社と社員の関係は刻々と変化している
  • 当社でセクハラやパワハラは起こらない→セクハラやパワハラはどんな組織にも起こりうる
  • コンピュータは万能だ→コンピュータは意外にもろい
  • 社長は元気だ→事故や急な病に見舞われる可能性のない人間はいない

「会社から帰さない」「会社に来させない」という判断も

東日本大震災が発生した日の夜、翌日が土曜日ということもあって、たくさんの人々が、何十キロという道のりを歩いて家へ帰ろうとしました。
いまでこそ言えることではありますが、電車が止まり、しかも余震が続くなか、社員を徒歩で家に帰すことにリスクはなかったでしょうか。

BCP(事業継続計画)では、そうしたときに、会社として「社員を帰さない」という決断も検討する必要があります。

あるいは、大型台風の上陸が予想されるようなときでも、未だに日本のビジネスマンは、何とかして会社へ来ようとします。また、「はってでも会社へ来るのが当然」と考える上司の方もおられることでしょう。

ですが、いまは職種によっては、パソコンを使って家に居ながらにして仕事ができる時代です。台風等で交通網が乱れる中を無理して会社へ来るより、むしろ家にとどまって仕事をしたほうが、はるかに効率的かも知れません。

世界規模で異常気象が続き、テロや感染力の高い新型インフルエンザなど、以前はあまり考えなかったようなリスクが、身近なものとして意識されるようになってきています。
であるならば、こちらも発想を変えて、緊急事態に対処する方法を検討するべきだと考えます。

特に、「在宅勤務」の導入は、ぜひ検討していただきたいと思います。どんな状態のときであっても、社員がふだん通り仕事ができる環境を整えることは、緊急時対応にとどまらず、会社の基礎体力を高め、生産性の向上にもつながるはずです。

事業継続のためにいちばん大切な覚悟とは

緊急事態にどう対応するのか方針が固まったら、次に実務レベルでの問題点を洗いだします。
緊急時に在宅勤務を認めるのであれば、労務管理や仕事の評価方法なども検討しなければなりません。そのためには、ふだんから社員が抱える仕事の量や質を把握しておき、在宅勤務でこなす仕事の適正量をわかっておく必要があります。

緊急事態に「臨時委員会」が会社の司令塔として機能するには、平時から問題意識をもって観察し、課題を見つけ、「もっといい方法はないか」と考え続ける総務の役割は重要です。

そして最後に、BCP(事業継続計画)において一番大切なことは、

「事業継続のための最優先事項を決める」

ということに他なりません。「緊急事態なのだから、やれることをやればいい」という考えでは、会社を継続させることは難しいと思われます。

ある小さな製パン工場では、たとえ災害等で工場を動かせない事態になっても、学校給食用のパンだけは作れるようにと、社長の家の敷地に臨時の作業場を用意しているそうです。いざというときには、社長自らパンをこね、集まれる社員だけで給食用のパンを作るためです。

会社を継続するためにいちばん大事なのは、「どんな緊急事態であっても、この事業だけは止めない!」という覚悟であると、筆者は考えます。
そのために、BCP(事業継続計画)を立てるのです。

BCP(事業継続計画)を作るということは、「この会社が果たすべき使命は何か」という問題に向き合うことでもあると思うのです。
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執筆者プロフィール

河西知一氏(特定社会保険労務士)
大手外資系企業などの管理職を経て、平成7年社会保険労務士として独立後、平成11年4月にトムズ・コンサルタント株式会社を設立。労務管理・賃金制度改定等のコンサルティング実績多数。その他銀行系総研のビジネスセミナーでも明快な講義で絶大な人気を誇る。著書に『モンスター社員への対応策』(泉文堂)など。
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