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「オンボーディング」とは?その③ 中途採用社員のオンボーディング

2025年5月30日更新

社会保険労務士が提案する中小企業の「人材・組織マネジメント」

「オンボーディング」とは?その③ 中途採用社員のオンボーディング

[有馬美帆氏(特定社会保険労務士)    ]
前回は新卒社員のオンボーディングについてお伝えしました。
今回は中途採用社員に関するオンボーディングの実践についてです。

1.中途採用社員の早期離職防止と能力発揮のために

少子化の進行で新卒社員の採用自体が難しくなるなか、中途採用社員の採用に注力する企業は年々増える一方です。
中途採用社員は「即戦力」人材であることを期待されて入社しています。
ですが、「即戦力」とは何もしなくとも戦力になるという意味ではありません。

新入社員にはさまざまな研修などを用意しても、中途採用社員には「経験者だから」と、いきなり仕事を任せてしまったりします。
それが、早期離職につながるリスクや、真に能力を発揮できないリスクを増大させているのです。

以前お伝えした通り、中途採用社員の場合は「組織再社会化」というプロセスを経ることになります。
≫ 連載第30回:『「オンボーディング」とは?その① 組織社会化とコーチング』参照

今回はそのプロセスを円滑に進めるためのヒントとなる、「心理的安全性」と「アンラーニング(学習棄却)」について説明します。

2.中途採用社員の組織再社会化に必須の心理的安全性

「心理的安全性」とは、エドガー・シャインとウォレン・ベニスが1965年に提唱した概念で、質問したり、ミスを認めたりしても、他のメンバーから責められないという安心感を持つ状態のことをいいます。
2019年にハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソンが職場・グループレベルにおいて、心理的安全性が大きな効果を発揮することを実証したことで広く普及しました。

新卒社員ならば、そもそも「何も知らない」「上手にできない」のが当然ですので、殊更に心理的安全性という概念を持ち出さなくても大丈夫かもしれません。
ところが、中途採用社員のうち、特に知識や経験を期待された即戦力人材ですと、「この質問は初歩的だと思われたら恥ずかしい」「経験者なのに失敗して馬鹿にされたらどうしよう」という不安に包まれている可能性があります。
これが組織に「なじむ」うえで壁となってしまうのです。

このような状態のままでは、真に戦力にはなってもらえません。
「聞くは一時の恥」という言葉がありますが、たとえ中途採用社員であっても、新しい職場は知らないことばかりなので、質問はそもそも恥ではないのだと伝えて、心理的安全性を確保してあげることを、組織再社会化の出発点にしてください。
さらに、このスタンスを職場・グループレベルで共有しましょう。
失敗もできるなら避けたいところですが、仮に失敗したとしても心理的安全性の高い職場ならば、失敗から学べる職場となり、イノベーションが促進されるなどの成果が期待できるのです。

3.アンラーニング(学習棄却)とは?

中途採用社員が組織に「なじむ」うえでもう1つ壁となるものがあります。
それが、過去の経験や成功体験への強いこだわりです。
経験は非常に役に立つものですが、こだわりすぎると新たな環境での能力発揮がうまくいかなくなります。
それを防ぐためのプロセスが、「アンラーニング(学習棄却)」です。
アンラーニングには組織レベルと個人レベルがありますが、今回は個人レベルの話となります。

個人レベルのアンラーニングとは、「以前の知識やスキルを意図的に棄却しながら、新しい知識・スキルを取り入れるプロセス」のことです。
「棄却」というとすべて捨て去ってしまうイメージが強いので、「学びほぐし」と表現されることもあります。
こちらのほうが中途採用社員のオンボーディングに使いやすい言葉でしょう。
「忘れる」や「捨てる」ではなく、今までの知識やスキルで凝り固まった自分をいったんほぐして、新鮮な気持ちで新たな職場で必要な知識やスキルを見つめ直してもらうステップをオンボーディングに取り入れてください。

そのためには、中途採用社員との「対話」が欠かせません。
「貴方のこれまでの経験やスキルは必ず役に立つ時が来ます」と伝えつつ、「学びほぐし」に取り組む具体的な方向性を示していくことになります。
その過程が進むと、中途採用社員が自己を「再定義」することができ、そのうえで、今までの知識やスキルも再活用できるようになります。


中途採用社員のオンボーディング
中途採用社員は、前職の職場や前職の取引先などの人脈は有していても、転職先での人脈はこれから形成していくことになります。
この際にも、「学びほぐし」の考えは役に立ちます。
即戦力人材には、どうしてもすぐに専門業務を担当させたくなってしまいます。
ですが、社内のさまざまな部署の業務を見学してもらったり、多様なメンバーと交流してもらったりして、新たな組織を「学ぶ」機会を意図的に設けることで、社内人脈というネットワークに支えられた状態で専門性を発揮することが可能になります。
これもまた大事なオンボーディングです。
執筆者プロフィール

有馬美帆氏(特定社会保険労務士)   
社会保険労務士法人シグナル 代表社員。ISO30414リードコンサルタント。2007年社会保険労務士試験合格、社会保険労務士事務所勤務を経て独立開業、2017年紛争解決手続代理業務付記。IPO支援等の労務コンサルティング、就業規則作成、HRテクノロジー導入支援、各種セミナー講師、書籍や雑誌記事、ネット記事等の執筆を中心に活動。著作として、『M&A労務デューデリジェンス標準手順書』(共著、2019年、日本法令)、『起業の法務-新規ビジネス設計のケースメソッド』(共著、2019年、商事法務)、『IPOの労務監査 標準手順書』(共著、2022年、日本法令)など。

連載「社会保険労務士が提案する中小企業の「人材・組織マネジメント」」

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