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[第4回]〝セコい〟コスト削減は百害あって一利なし

2018年2月2日更新

元総務部長が語る「総務の仕事とは」

[第4回]〝セコい〟コスト削減は百害あって一利なし

[河西知一氏(特定社会保険労務士)]

やってはいけない〝せこい〟コストカット

東京都・舛添要一知事の辞任騒動を象徴する言葉として、「sekoi(せこい)」という日本語がNYタイムズで紹介されました。舛添氏の名前は、「せこい」という言葉とともに、世界中に広まったわけです。

この「せこい」という言葉を辞書で引くと、
けちくさい。ずるい。料簡がみみっちい
などと書かれています。

たとえどんなに有能な人であっても、そのような〝せこい〟人をリーダーとして信頼する人はいません。しかし一方で、組織のなかで上に立つ人ほど、無自覚のうちにセコくなりがちなのも現実ではないでしょうか。
経営者も例外ではありません。たとえば、

「経費削減でお中元等の贈り先を減らすように指示する一方で、社長は年間数百万円の交際費を使っている」
「社長は運転手付きの高級外車に乗りながら、社員には6か月単位で定期代を支給する」
などなど——。

「社長なのだから高級な店で飲むのも仕事のうち」「地位にふさわしい車に乗って何がいけない」…。そんな声が聞こえてきそうです。
しかし、そうした経営者の振る舞いは、社員の目にどのように映るでしょうか。

舛添氏は、海外出張などで湯水のように都民の税金を使いながら、一方では正月の家族旅行にすら身銭を切るのを惜しむという〝せこさ〟によって、東京都知事の職を失いました。
私見ですが、お金の使い方に締まりのない人ほど、セコい節約を好む傾向が強いように思われます。

経費節減はもちろん大切ですが、セコいコストカットをする経営者から、社員の心は離れていきます

社員にコスト削減を求めるときは、まず経営者と総務担当者が、率先して襟を正すべきでしょう。全社を挙げてコスト削減をするときに、例外や抜け道があってはいけません。

その節約にどれほどの効果があるのか? 冷静に考えよう

ある小さな飲食店での話です。
初めて来店したサラリーマン風の客2~3人が、一品料理を注文するたびに新しい割り箸を使って、料理を取り分けながら食べていました。その様子を見ていた店主は、客が4皿目の料理に新しい割り箸を使おうとするのをみて、思わず

「お客さん、いい加減にしてくださいよ!」

と言ったそうです。

その話を店主から聞いた私は、割り箸1本の値段を尋ねました。すると、1本4円程だろうと言います。
つまりその店主は、1本4円の割り箸を惜しむあまり、(おそらく)ひと皿1,000円以上の料理を注文してくれる客に文句をつけたことになります。
気まずい思いをした客が2度とその店に来なくても、なんら不思議はありません。

このように、小さな節約大きな損を生んでしまっては、そのコストカットは失敗です。
しかし、わかりやすい「小さな無駄」が気になって仕方がないという経営者の方はけっこう多いようです。

ある経営者は、女子社員がコピーに失敗した紙を捨てようとしているのを見て、「俺の紙を勝手に捨てるな!」と叱ったそうです。また、ゴミ出し用の段ボールに使うガムテープの長さを「○センチ以内にする」という社内ルールを作った経営者もいます。

資源を大事にするのは悪いことではありませんが、細かすぎるのはいけません。1円~2円の無駄を目の敵にして制限ばかり設けていては、そこで働く社員の気持ちが窮屈になってしまいます。
「コスト制限ばかりしていると、いいアイデアが湧かなくなる」と考えるのは私だけでしょうか。

社長の命令だからといって、総務担当者が、唯々諾々とセコいコストカットを手伝っているのは問題です。

「その節約に、何円の効果があるのか?」
「1円~2円の節約が、かえって大きな損を招くことはないか?」

ちょっと立ち止まって、冷静に考えてみてください。そして場合によっては、経営者がやろうとしているセコい節約を止める覚悟を持っていただきたいと思います。

職場の生産性を高めるためには、1円~2円の無駄が必要なこともあります。それよりも、もっと大きな無駄にこそ、経営者と総務担当者は目を向けるべきです。

カットしてはいけないコストと見逃してはいけないムダ

コストはカットすればいいというものではありません。原価意識は必要ですが、コストの中には、削ってはいけないコストもあるからです。

たとえば、社員の教育訓練安全衛生に関するコストがそうです。
会社にとって究極の資産は、「人」と「信用」です。それを損ねるようなコストカットは、絶対に、やってはいけません。

間違ったコストカットは、会社を危機に陥れます。

一方で、金額は小さくても見逃してはいけないムダなコストもあります。
ある会社の総務担当者の悩みは、会社の文具類がすぐになくなることでした。その会社の経営者は、文具類はケチケチせずに、少しいいモノを豊富に使えばいい、という考えの持ち主でもあります。

「それにしても、消耗するのが早すぎる」と考えた総務担当者が、社員の同意を得て、ロッカーを抜き打ちで検査したところ、ある社員のロッカーから、まとまった量の新品の文具類が見つかりました。
金額にすればたいしたものではなく、当の社員にしてみても、「他人に使われる前に、気に入った文具を自分のロッカーにストックしておいた」くらいの軽い気持ちだったそうです。

しかし、こうしたムダを見逃していると、いつしか社内の空気が弛んでいきます。気がついたときには、深刻なモラルダウンを来しているかも知れません。

コスト意識には、経営者の人柄会社の文化が表われるのです。
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執筆者プロフィール

河西知一氏(特定社会保険労務士)
大手外資系企業などの管理職を経て、平成7年社会保険労務士として独立後、平成11年4月にトムズ・コンサルタント株式会社を設立。労務管理・賃金制度改定等のコンサルティング実績多数。その他銀行系総研のビジネスセミナーでも明快な講義で絶大な人気を誇る。著書に『モンスター社員への対応策』(泉文堂)など。
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