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[第8回] 総務は社員の〝健康リスク〟に目をつぶってはいけない

2018年3月2日更新

元総務部長が語る「総務の仕事とは」

[第8回] 総務は社員の〝健康リスク〟に目をつぶってはいけない

[河西知一氏(特定社会保険労務士)]

健康な社員、健全な職場が会社を伸ばす!

「健康な従業員こそが収益性の高い会社をつくる」

これは、1980年代に米国の経営心理学者、ロバート・ローゼン氏が提唱した〝ヘルシーカンパニー思想〟という概念です。

これまでも日本の企業は、「福利厚生」という観点から従業員の健康維持に取り組んできました。
しかし、生産性の向上企業の持続的な成長には、従業員の健康に企業が積極的に関与・管理する必要がある、という考えから、最近は日本にも「健康経営」という言葉が生まれています。

「健康経営」とは、
健康経営とは、「企業が従業員の健康に配慮することによって、経営面においても大きな成果が期待できる」との基盤に立って、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践することを意味しています。(後略)

(NPO法人健康経営研究会HPより抜粋。「健康経営」はNPO法人健康経営研究会の登録商標です)
経済産業省と東京証券取引所が、上場企業を対象に健康経営を積極的に取り入れている企業を「健康経営銘柄」として選定したり、いくつかの経済団体が会員企業の健康経営への取り組みを紹介したり、「健康経営」という概念は、大企業を中心に少しずつ広がっているようです。

しかしその一方で、2015年度に長時間労働やパワハラが原因でうつ病などの精神疾患を発症したとして労災申請をした人の数は1,515人。2014年度から59人増え、初めて1,500人を超えました(厚生労働省調査)。
同じく脳・心臓疾患による労災申請も795人と前年度から32人増え、高止まりしています。

少しずつ認知されてきているとはいえ、全雇用者の7割を占めるといわれる中小企業では、「健康経営」に積極的に取り組んでいる企業はそれほど多くないのが実態でしょう。人手が不足し、デフレ脱却もままならない現状では、「健康経営」など絵に描いた餅のように思っている経営者もおられるかも知れません。

しかし、中小企業こそ、従業員の健康に目を配り、職場の生産性を高めることなくして、人口が減少していくこれからの厳しい時代を生き抜くことはできない、と筆者は考えます。社員の健康維持にかかる手間とお金は、

「コスト」ではなく、「投資」である

と考える時代ではないかと思うのです。

「客観的事実+言葉+心理学」で社長の決断を助ける

もし、総務担当者が、特定の部門もしくは特定の社員が過重労働になっている、あるいはパワハラが疑われるという話を聞いたら、ただちに事実を確認して、必要があれば社長に報告します。

このとき、総務担当者は絶対に、「見て見ぬふり」をしないでください。

このまま問題を放置した場合にどんなリスクが起こりうるか。他社で起きたトラブル事例や過重労働撲滅に本腰を入れ始めた労働行政の動向といった客観的事実と共に社長に伝えます。
そして最後に、総務として考えた対応策を社長に〝相談〟してください。

このとき、決して総務の意見に社長の同意を取り付けようとしてはいけません。
〝決断〟は、社長の仕事だからです。

それだけに、どのような事実を・どの順番で・どのような言葉で社長に伝えるか、情報の出し方には工夫が必要です。
よい総務であるためには、提案力や文章力に加えて、「社長ならこう思うだろう、こう考えるだろう」と経営者の心理を読むメンタリストの顔も必要かも知れません。

しかし、なかには長時間労働やパワハラによって社員が健康を損なうリスクや会社が被る損害について、認識が甘い経営者もいるでしょう。そうなると、総務は非常に苦しい立場に立たされます。

ですがそんなときでも、会社をリスクから守るためには一歩も引かない覚悟を総務担当者は示していただきたいと願っています。

総務は「相談窓口宣言」をしよう!

一方、社員の側も長時間労働やハラスメントに対する意識を改める必要があると考えます。

たとえば、長時間労働の原因はどこにあるのか?
仕事の進め方が非効率なのか、それとも仕事量が多すぎるのか?

もしも仕事量が多すぎて長時間労働になっているのであれば、社員の側にも「頑張りすぎない」勇気が必要です。
まずは上司に相談して、仕事量を調整してもらう。それでも解決しないときは、社内の〝誰か〟に相談することも考えられるでしょう。

その〝誰か〟とは、総務をおいて他にありません。

社員が過重労働で体調に不安を感じたり、上司や同僚からのハラスメントに悩んだりしたとき、相談先として「総務」が頭に浮かばないようでは、その会社の総務は失格です。

ぜひ、総務担当者はあらゆる広報手段を用いて、「相談窓口宣言」をしていただきたいと思います。そして当事者からだけでなく、同僚のメンタル不調やハラスメント被害を心配する第三者からの相談も受け付けることを明言してください。

ある会社では、パワハラを目撃した社員が、うつ病になってしまったといいます。職場の不健全な空気は、その場にいるすべての社員の健康を損なうのです。

冒頭で紹介したヘルシーカンパニーの概念、「健康な従業員こそが収益性の高い会社をつくる」のだとすれば、逆もまた然り。

過重労働やハラスメントを放置していては、社員の健康を損なうだけではなく、会社の収益を損ない、いつかは会社そのものを潰すことにもなりかねません。
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執筆者プロフィール

河西知一氏(特定社会保険労務士)
大手外資系企業などの管理職を経て、平成7年社会保険労務士として独立後、平成11年4月にトムズ・コンサルタント株式会社を設立。労務管理・賃金制度改定等のコンサルティング実績多数。その他銀行系総研のビジネスセミナーでも明快な講義で絶大な人気を誇る。著書に『モンスター社員への対応策』(泉文堂)など。
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