本コラムでは、改正内容や実務ポイントなどについて解説します。
(1)仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取
事業主は、労働者が本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出たとき、そして、労働者の子が3歳になるまでの適切な時期に、「勤務時間帯や勤務地、両立支援制度等の利用期間、労働条件の見直し等」(以下、「労働条件の見直し等」といいます)について、労働者の意向を個別に聴取することが求められます。■実施のタイミング
①労働者が本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出たとき ②労働者の子が3歳の誕生日の1か月前までの1年間 |
■聴取事項
①勤務時間帯(始業、終業の時刻) ②勤務地(就業の場所) ③両立支援制度等の利用期間 ④仕事と育児の両立に資する就業の条件(業務量、労働条件の見直し等) ※両立支援制度は、所定外労働・時間外労働・深夜業の制限に関する制度 |
■聴取の方法
①面談(オンライン可) ②書面 ③FAX ④電子メール等 ※③、④は労働者が希望した場合 |
(2)聴取した労働者の意向についての配慮
事業主は、(1)により聴取した労働条件の見直し等に関する労働者の意向に基づき、労働条件の見直しや業務量の調整など、適切な配慮を行なうことが求められます。(3)実務のポイント
2回の実施のタイミング、意向聴取についての流れは、以下のとおりです。
○個別の意向聴取の方法について
一般的には人事部が行なうことが想定されていますが、人事部でなくとも、事業主からの委任を受けていれば、所属長や直属の上司が実施しても差し支えありません。直属の上司が対応することで、労働者の意向を引き出しやすくなる可能性もある一方で、逆に、関係性によっては意向を表明しにくくなるケースも考えられます。
そのため、直属の上司が意向聴取を行なう場合には、制度の趣旨や適切な対応方法について、あらかじめ十分に理解しておくことが重要です。
○聴取した意向への配慮について
事業主には、労働者から聴取した意向の内容を踏まえ、対応の可否について真摯に検討を行なうことが求められます。とはいえ、すべての意向にそのまま応えることが現実的に難しい場合もあるでしょう。
事業主としても、業務体制や人員状況などを踏まえたうえで、自社の実情に応じて可能な範囲で配慮を行なうことが基本となります。
したがって、必ずしも労働者の意向どおりに対応しなければならないわけではありません。
検討の結果、意向に沿った対応が困難な場合には、その理由を労働者に分かりやすく説明するなど、丁寧かつ誠実な対応が求められます。
このような姿勢こそが、信頼関係の維持・構築につながるものといえるでしょう。
運用に向けて、厚生労働省のWord形式の参考様式も参考にしてみてください。
13-1 (妊娠・出産等申出時)個別周知・意向確認書、個別の意向聴取書記載例
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000852934.doc
13-3 (子が3歳になる前)個別周知・意向確認書、個別の意向聴取書記載例
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001397890.doc
(4)個別周知・意向確認などの義務のまとめ
2025年10月施行の改正育児・介護休業法により、以下の2回にタイミングにおいて、個別周知や意向確認など、事業主が対応しなければならない項目が複数定められています。①労働者が本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出たとき
②労働者の子が3歳の誕生日の1か月前までの1年間

<改正育児・介護休業法>雇用環境整備・個別の周知と意向確認の措置に関する実務対応(1)
<改正育児・介護休業法>雇用環境整備・個別の周知と意向確認の措置に関する実務対応(2)
●「柔軟な働き方を実現するための措置」の個別周知・意向確認(前回)
10月施行の「育児・介護休業法改正」 柔軟な働き方を実現するための措置を義務化
単なる制度の提供だけなく、労働者のニーズに寄り添った個別の対話と信頼関係の醸成を通じて、いかにして“働きやすい職場環境”を構築していくか、企業の真価を問われる時代になっていくのだと感じます。