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専門家コラム Professional Eye

2018年8月3日更新

海外企業との取引はこう進める!トラブルに負けない契約書のつくりかた

[第3回] トラブルを回避するための契約書作成のポイント(2)

[今津泰輝氏(弁護士)][坂本 敬氏(弁護士)]

日本の商習慣と異なる海外企業との取引は拡大傾向にあります。すでに中小企業のなかでも、販路・事業拡大から海外進出している企業も少なくありません。国は違えどもビジネスにおいて契約を取り交わすことに変わりはありませんが、言葉が異なる分、契約をあいまいにはできません。それだけに、契約書はどちらの国で有効になるのか、国内法とどう違うのか、考えておくことは沢山あります。実例を踏まえて、何が必要なのか、ポイントを教えます。

第3回からは、具体的な契約書作成のポイントについて、ご紹介いたします。

紛争解決条項

海外企業と契約する場合には、紛争解決の方法や場所によって、金銭的・時間的なコストが大きく異なりますし、判決の有利不利が変わることもあります。
実際に訴訟などには至らなかったとしても、紛争が発生した場合には、法的手段も見すえて交渉が行われます。そのため、契約書に記載された紛争解決条項の内容が、当事者間の交渉力にも大きな影響を与えることになります(第1回のケース2)。
海外企業との契約書では、紛争解決条項は最も重要な条項のひとつなのです。

紛争解決方法の選択肢

海外企業との契約の場合には、訴訟または仲裁が主要な選択肢となります。
仲裁とは、仲裁人が仲を取り持って、当事者同士の話し合いを援助することではありません。当事者が紛争解決を民間の中立的な仲裁人の判断に委ね、その判断に服する手続のことです。仲裁判断は、裁判所の判決と同様の強制力を有します。

紛争解決方法を仲裁とする場合には、その旨の合意が欠かせませんので、例えば、以下の条項を契約書に設けておく必要があります。
All disputes, controversies or differences which may arise between the parties hereto, out of or in relation to or in connection with this Agreement shall be finally settled by arbitration in Tokyo, Japan in accordance with the Commercial Arbitration Rules of The Japan Commercial Arbitration Association.
(本契約から、または本契約に関連して、当事者の間に生ずることがあるすべての紛争、論争または意見の相違は、一般社団法人日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従って、日本国東京において仲裁により最終的に解決されるものとする。)
なお、紛争解決方法を「訴訟または仲裁」と定める条項を見かけることもありますが、このような条項は仲裁人の判断に服する旨の合意ではないため、仲裁合意としての効力に疑義が生じる可能性が高いです。

訴訟か仲裁か……選択の際に留意すべき点

~海外の裁判所が自国の企業に有利な判断をするおそれ~

特に新興国や中国の裁判所は、自国の企業に有利な判断をしたり、自国の企業に不利な判決にならざるを得ない場合に訴訟手続を事実上停止させたりしてしまうこともあります。

陪審員は自国の企業に有利な判断をする危険がある、という意味では、民事訴訟でも陪審制度がある米国の裁判所でも、同様のおそれは否定できません。なお、米国の訴訟では、ディスカバリーと呼ばれる、当事者間で広範な証拠開示を行う手続がありますが、それに対応するには多大なコストが必要となります。この点も、米国の訴訟の大きなリスクです(第1回のケース2)。


~強制執行の可否~

日本の裁判所で勝訴判決を得たとしても、海外企業が損害賠償等の支払を行わなければ、その海外企業が日本で財産を持っていない限り、相手国の裁判所へ強制執行を申し立てる必要があります。
日本の判決に基づく強制執行を認める国も多く存在しますが、例えば、中国の裁判所は、現時点では、日本の判決に基づく強制執行を否定しています(第1回のケース3)。

他方、仲裁判断については、ニューヨーク条約(外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約)の加盟国間であれば、強制執行が認められています。日本も中国も同条約の加盟国であるため、日本での仲裁判断に基づく強制執行は、中国の裁判所でも認められることになります。

紛争解決条項をどのように選択すべきか

紛争解決の場所は相手国ではなく自国とする方が、金銭的なコストを抑えることができます。それでも、海外企業を相手とする訴訟などの法的手段は、特に中小企業の場合には、費用対効果を考慮すると、あまり現実的ではない場合の方が多いといえます。
そのため、まずは海外企業から訴えられにくくする、すなわち海外企業が訴えるコストを大きくすることを念頭に、紛争解決条項を選択すべきです。

日本企業としては、訴訟または仲裁を行なうのは日本国内とするのが望ましいです。その際、仲裁の場合には、弁護士の報酬に加えて、仲裁人の報酬等も支払う必要があるため、その点では、訴訟を選択した方がよいでしょう。もっとも、相手が日本の判決に基づく強制執行を否定している国の企業であれば、仲裁も検討すべきです。

逆に、相手国での訴訟または仲裁(特に訴訟)は、可能な限り避けるべきです。
少なくとも、あいだを取って、被告地主義(日本企業が訴える場合には相手国、海外企業が訴える場合には日本)で合意しておきたいところです。

準拠法

海外企業との契約書では、どの国の法律が適用されるかを定めておくことも一般的です。日本企業にとっては、日本法と定めておきたいところです。
なお、動産の売買契約の場合には、相手がウィーン売買条約加盟国の企業であれば、原則として同条約が適用されるため、同条約の適用を排除しておくということであれば、その旨も明記しておく必要があります。
ニューヨーク条約
外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約。外国の仲裁判断を国内で承認しこれに基づき強制執行することを許可する要件を定めた条約で、1958年にニューヨークで作成される。 一般社団法人日本商事仲裁協会:外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約


ウィーン売買条約
国際物品売買契約に関する国際連合条約。国際物品売買契約についての統一法を設けることによって国際取引の発展を促進することを目的として、国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)が起草し、ウィーン外交会議において採択された。
外務省:「国際物品売買契約に関する国際連合条約」について(略称:国際物品売買契約条約(ウィーン売買条約))
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執筆者プロフィール
今津泰輝氏(弁護士)
米国を本拠地とする大規模ローファームを経て、今津法律事務所(現弁護士法人今津法律事務所)を開設。著書に『なるほど図解 会社法のしくみ』(中央経済社)などがある。
坂本 敬氏(弁護士)
平成27年1月弁護士登録、同月今津法律事務所(現弁護士法人今津法律事務所)に入所。

弁護士法人今津法律事務所
http://www.imazulaw.com/