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注目の「最低賃金」―引上げ目安は過去最大となる全国平均63円!

2025年8月12日更新

人事労務News&Topics

注目の「最低賃金」―引上げ目安は過去最大となる全国平均63円!

[矢島志織(特定社会保険労務士)]
2025年8月4日、第71回中央最低賃金審議会において、2025年度の地域別最低賃金額の改定額の目安が示されました。
改定額は、過去最大だった2024年度の引上げ額50円をさらに上回る6%(63円)が軸となり、議論は難航。
実に数十年ぶりとなる小委員会を計7回開催した末に、ようやく決定がなされました。

(1)2025年度の地域別最低賃金の目安額

中央最低賃金審議会は、全都道府県をA・B・Cの3つのランクに分けて、改定額の「目安」を提示しました。
この後、地方最低賃金審議会では、この目安を参考に、地域の実情を踏まえて、調査審議のうえ、都道府県労働局長が地域別最低賃金額を決定する流れとなります。

各都道府県の引上げ額の目安として示された金額は、Aランク63円、Bランク63円、Cランク64円となります。
また、各ランクを都道府県別に分類すると以下のとおりです。
ランク 都道府県 引上げ額
A 埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪 63円
B 北海道、宮城、福島、茨城、栃木、群馬、新潟、富山、石川、福井、山梨、長野、岐阜、静岡、三重、滋賀、京都、兵庫、奈良、和歌山、島根、岡山、広島、山口、徳島、香川、愛媛、福岡 63円
C 青森、岩手、秋田、山形、鳥取、高知、佐賀、長崎、熊本、大分、宮崎、鹿児島、沖縄 64円
たとえば、以下のように最低賃金額の改定が予想されます。
東京 :2024年度最低賃金1,163円+63円=1,226円
神奈川 :2024年度最低賃金1,162円+63円=1,225円
大阪 :2024年度最低賃金1,114円+63円=1,177円
北海道 :2024年度最低賃金1,010円+63円=1,073円
沖縄 :2024年度最低賃金952円+64円=1,016円
岩手 :2024年度最低賃金952円+64円=1,016円
秋田 :2024年度最低賃金951円+64円=1,015円

(2)全国平均63円の引上げの影響

全国平均で63円の引上げとのことですが、たとえば、1日8時間勤務、かつ、月20日労働の場合、時給63円の上昇により、月あたり「10,080円」(=63円/時×8時間/日×20日/月)の追加負担となります。
つまり、最低賃金の引上げに伴い、月単位で約1万円の人件費アップです。
企業にとっては、相当な影響ではないでしょうか。

(3)最低賃金額以上になっているかどうかの確認方法

目安額が示された今、企業にとっては、従業員の賃金が最低賃金額を下回っていないかを確認することが急務です。
時給制の場合は、容易に判断できますが、月給制の場合には、注意が必要です。

月給制の従業員について、最低賃金額を満たしているかを確認する方法を見ていきましょう。

自社の賃金が最低賃金額以上になっているかどうかを確認するためには、月給を1か月の平均所定労働時間で除した金額(=時間単価)と、最低賃金額とを比較する必要があり、次の計算式で確認することができます。

※平均所定労働時間とは=(年間の労働日数×1日の所定労働時間)÷12

「月給」は、毎月支払われる固定的な賃金のことを指し、基本給のみならず、役職手当等の諸手当も含めた賃金です。
具体的には、実際に支払われる賃金から次の賃金を除外したものが最低賃金の対象となります。
<最低賃金から除外する賃金>

①臨時に支払われる賃金(慶弔手当等)

②1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与等)

③所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金等)

④所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金等)

⑤午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金等)

⑥精皆勤手当、通勤手当、家族手当

また、似たものとして、割増賃金の算定に用いる「基礎賃金」がありますが、取扱いが異なりますので注意しましょう。
[参考] 割増賃金の基礎賃金から除外する賃金

①家族手当

②通勤手当

③別居手当

④子女教育手当

⑤住宅手当

⑥臨時に支払われた賃金

⑦1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

なお、定額残業制度を導入している場合、残業分として支給している手当(例:固定残業手当等)は、「最低賃金の対象となる賃金」と「割増賃金の基礎賃金」のどちらからも除外対象となります。


今回の最低賃金の引上げは、過去最大規模の改定であり、企業経営に大きな影響を及ぼす可能性があります。
そのため、自社の賃金体系を精査し、必要に応じて早期に改定を行なうことが不可欠です。
あわせて、賃金体系に基づいた人材育成プランを策定し、人件費の見通しとキャリア形成を両立できる人事制度を構築することが、今後は一層求められてくるのではないでしょうか。
執筆者プロフィール

矢島志織氏(特定社会保険労務士)
社会保険労務士法人 志‐こころ‐特定社労士事務所 代表社員/ISO30414リードコンサルタント/学校法人産業能率大学 非常勤講師/健康経営エキスパートアドバイザー

SEとして人事系システム開発に従事後、中小企業や上場企業の人事部を経験し、勤務社労士を経て開所。豊富な現場経験を強みに、企業全体の労務リスクを分析し、人事労務DD、IPO支援、人事制度、就業規則の見直し等を行う。現場の声を聞きながら、人事労務セミナーや企業研修講師を行う等、多数の講演実績あり。著書として『労働条件通知書兼労働契約書の書式例と実務』(日本法令)、『IPOの労務監査 標準手順書』(日本法令)など。
志-こころ- 特定社労士事務所

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