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スポットワーク(スキマバイト)を中小企業が利用する場合の注意点

2025年6月30日更新

社会保険労務士が提案する中小企業の「人材・組織マネジメント」

スポットワーク(スキマバイト)を中小企業が利用する場合の注意点

[有馬美帆氏(特定社会保険労務士)    ]
今回は、最近利用者数が増えている「スポットワーク(スキマバイト)」について、中小企業が導入・利用する際の注意点をお伝えします。

1.スポットワーク(スキマバイト)とは?

スポットワークとは、短時間または1日限定の雇用契約(労働契約)を締結して、報酬を得る働き方をいいます。
法的な定義ではありませんが、空き時間を活用して働くことから「スキマバイト」とも呼ばれ、副業・兼業の広がりとも相まって、ここ数年で急速に普及している働き方です。

スポットワークに従事する人を「スポットワーカー」といいます。
スポットワーカーは、主にスマートフォンのアプリや求人サイトで仕事を見つけます。
このアプリやサイトを提供しているのが仲介サービス事業者で、求人を出した企業はアプリやサイトを介して応募してきたスポットワーカーと雇用契約(労働契約)を締結します。

似たような働き方に「ギグワーク」があります。
ギグワークは、主にインターネット上のプラットフォームで単発の仕事を受注し、業務委託契約を締結する働き方です。
このギグワークに従事する人を「ギグワーカー」といいます。
スポットワーク(スキマバイト) 短時間または1日限定の雇用契約を締結して、報酬を得る働き方
ギグワーク 短時間または短期間の業務委託契約を締結して、報酬を得る働き方
ギグワークとスポットワークとの大きな違いは「雇用契約」の有無です。
スポットワークは通常、雇用契約(労働契約)を締結しますので、労働基準法などの労働関連法規の適用対象となります。
通常のアルバイトももちろん労働者ですので労働基準法の保護を受けますが、スポットワークの別名である「スキマバイト」とは、すき間時間に働いてもらうアルバイトであることに由来しているわけです。

2.スポットワーク(スキマバイト)を利用する際の注意点

中小企業がスポットワーカーを活用する際に、雇用契約(労働契約)関係にある場合は、労働基準法などの労働関連法規に違反しないよう注意する必要があります。

(1) スポットワーク(スキマバイト)と労働時間管理

スポットワーカーは、さまざまな企業や個人事業主と複数の労働契約(雇用契約)を締結して労働している可能性があります。
労働時間は事業場が異なる場合にも通算しなければなりません(労働基準法第38条)が、それだけでなく契約する企業(事業主)が異なる場合にも通算する必要があります(昭和23・5・14基発第769号)。
その結果、通算した労働時間が1日8時間を超える時間についてスポットワーカーを使用した場合には、時間外労働に対する割増賃金(残業代)を支給しなければなりません。

(2) スポットワーク(スキマバイト)と労災保険

スポットワーカーも労働者である以上は、労災保険の対象となります。
そのため、業務上の負傷または疾病(労働災害)については、労災保険の制度の保護が受けられます。
問題は通勤途上の負傷または疾病(通勤災害)です。
通常の労働者であれば、通勤災害についても当然保護が受けられます。

ところが、スポットワーカーの場合、通勤災害については法的に問題が整理されていない面があるのです。
ある大手の仲介サービス事業者の場合、スポットワーカーが就労場所(店舗など)に設置された2次元コードをスマートフォンのアプリで読み込んだ段階で労働契約(雇用契約)が締結されることになっているため、就労場所に向かうまでの時間に発生した通勤災害については、「そもそも労働者ではない=通勤災害ではない」という解釈もできなくはないのです。
この点については、まだ公的な見解が未整備で、確たることは言えない面がありますが、労働契約(雇用契約)は書面によらない合意でも成立するものであり、2次元コードを読み込む以前に、就労場所へ向かう段階ですでに契約が成立していたという解釈も、労働者保護の観点からは十分あり得るところです。
実際には労働基準監督署や裁判所等の判断に委ねられることになりますが、企業側としては、スポットワーカーの労働災害・通勤災害という事態が生じる可能性があるということを十分認識しておいてください。

(3) スポットワーク(スキマバイト)と雇用保険

雇用保険の加入要件は、①1週間の所定労働時間が20時間以上であること、②31日以上の雇用見込みがあることです。
スポットワーク(スキマバイト)で通常想定される、短時間または1日限定の働き方ですと、この加入要件を満たすことはなかなかないものと思われます。
そのため、スポットワーカーについては、原則として雇用保険の加入対象外となります。

(4) スポットワーク(スキマバイト)と社会保険(健康保険・厚生年金保険)

狭義の社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入要件は企業規模によっても異なりますが、雇用保険と同じく、スポットワーク(スキマバイト)で想定される短時間または1日限定の働き方で加入要件を満たすことはまずないと思われます。

現状ですと、従業員数51人以上の企業において、①週の所定労働時間数が20時間以上、②所定内賃金が月額88,000円以上、③2か月を超える雇用の見込みがある、④学生ではないという要件を満たすと社会保険に加入する必要があります。
しかし、この要件をすべて満たす働き方はもはや「スキマバイト」とはいえないでしょう。
とはいえ、同じスポットワーカーに繰り返し働いてもらう場合は、社会保険の加入要件について念のためチェックするようにしてください。

(5) スポットワーク(スキマバイト)と守秘義務・競業避止義務

スポットワーカーが、自社の顧客に関する情報や企業秘密などに接する可能性は十分あり得るところですので、守秘義務の遵守に関する手立てを講じることが必要です。
また、同業他社でのスポットワーク(スキマバイト)を掛け持ちする可能性も同様にあり得るところですので、競業避止義務の観点からのリスク管理策も講じる必要があるでしょう。

スポットワーク(スキマバイト)については、今後、国が法整備に乗り出すことが予想されます。
活用される場合は、法改正情報にも十分お気を付けください。
執筆者プロフィール

有馬美帆氏(特定社会保険労務士)   
社会保険労務士法人シグナル 代表社員。ISO30414リードコンサルタント。2007年社会保険労務士試験合格、社会保険労務士事務所勤務を経て独立開業、2017年紛争解決手続代理業務付記。IPO支援等の労務コンサルティング、就業規則作成、HRテクノロジー導入支援、各種セミナー講師、書籍や雑誌記事、ネット記事等の執筆を中心に活動。著作として、『M&A労務デューデリジェンス標準手順書』(共著、2019年、日本法令)、『起業の法務-新規ビジネス設計のケースメソッド』(共著、2019年、商事法務)、『IPOの労務監査 標準手順書』(共著、2022年、日本法令)など。

連載「社会保険労務士が提案する中小企業の「人材・組織マネジメント」」

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