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[第5回] 納税者と税務署が繰り広げる熱いバトル

2019年8月2日更新

タックスロイヤーが教える「法人税」のロジック

[第5回] 納税者と税務署が繰り広げる熱いバトル

[西中間 浩氏(弁護士、税理士)]
この連載も、今回で最後です。これまで話してきたことに関連して、何か聞いておきたいことはありませんか?
前回の話で「過大な役員報酬は損金算入が認められない」ことはわかりましたが、役員報酬が過大か適正か、誰が判断するんですか?
いい質問ですね。経営者の方にとっても、そこは大いに気になるところでしょう。

最終的には裁判所になるのでしょうが、税務調査や課税処分を行う際には、その判断をするのは税務署になります。そうなるとこれはもう、
「あなたの会社の法人税法上あるべき報酬・退職金額については税務署が決めます!」
というのと、ほとんど等しくなってきますね。

経営者からすれば、会社の内部事情や将来のビジョンも知らない税務署から、「これがお宅の適正な報酬額です」といわれることには、反感を覚えても仕方のないところでしょう。
ですが他方で、一部ではありますが、期末に利益調整を行なおうとする経営者の横行を許さないためには、こういった手段に出るしかないのです。

納税者としては、過大な報酬額ではないかと疑われた場合には、税務署が見落としている会社の内部事情や当該役員がいかに会社の売上げに貢献したかを示して、それが適正額であることを積極的にアピールしていくほかありません。

「適正な報酬額」とは

多くの善良な経営者の方は、「課税の公平」の問題がある以上仕方がない、それならば税務署が決めるであろう“適正額”を事前に予測して、その範囲内で役員報酬を決めようと考えると思います。
ところが、ここで大問題が発生します!

いったいいくらが今期の適正な役員報酬額となりそうなのか、税務署はわざわざその金額を教えてはくれません。
そりゃ、そうですよね。そんな問い合わせに逐一応じていては、税務署だってパンクしてしまいます。

事前に問い合わせができないとなると、こちらである程度、予測を立てるしかありません。
そこで気になるのが、そもそも税務署が「その役員報酬は過大である!」と課税処分をするとき、どうやって適正額を決めているのか? ということです。

税務署には、過去数年にわたって申告されたさまざまな会社のデータが蓄積されています。税務署は、そのデータのなかから問題となっている会社と似た状況にある会社の報酬額をサンプルとして複数持ち出して、平均額や最高額をとったりして決めています。
このときサンプルとして持ち出される税務署が保有するデータは、外部に開示されていません。
それじゃ、いくらが適正な報酬額なのかわからないじゃないか!
それはもう、おっしゃるとおりです。
ここに、この問題の悩ましいところがあります。

会社側としては、「もしも処分されたら、そのときは適正額以上は損金に入れられなくても仕方がない」と割り切るか、あるいは「処分されないように、少なめにしておこう」と控えめに報酬額を決定して目立たないようにするか、選択肢はそのどちらかしかありません。
なかなか課税処分を受けても仕方がないと割り切ることは難しいですので、通常は目立たないように控えめな報酬額にする会社が多いと思います。

仮に皆が控えめに報酬額を決定し出すと、税務署が保有しているデータもどんどん控えめな数字になっていくでしょう。そうなると、全体として役員報酬の適正額が、経済実態から離れて低いものとなってしまいかねません。

裁判所もこのことに気づいたのか、最近は、
「同業同規模法人の最高額以内に収まっていれば適正額でいいですよ」
あるいは
「明らかに過大でなければ平均の1.5倍の範囲内であればいいですよ」
と、この問題についてはある程度寛大な解釈を行ないはじめています(ただしこの判決は控訴審でひっくり返され、「平均が適正」とされました。東京高裁平成30年4月25日判決)。

このように役員報酬額の決定は“利益調整”に利用されやすいことから、税務署と納税者のいたちごっこが続いています。
経営者の脱税・節税行動パターンを分析されては規制が加わるといったことが繰り返されているのです。
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執筆者プロフィール

西中間 浩氏(弁護士、税理士)
外務省勤務を経て、東京大学大学院法学政治学研究科法曹養成専攻(ロースクール)修了。2011年1月より、鳥飼総合法律事務所弁護士。第二東京弁護士会(民事介入暴力対策委員会、国際委員会)所属。2019年5月より、税理士登録。主な取扱分野は、税務、企業法務、事業承継・相続など。
著書に『日本一やさしい税法と税金の教科書』(日本実業出版社)がある。
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