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[第4回] 社長の報酬や退職金はなぜ自由に決められない?

2019年7月22日更新

タックスロイヤーが教える「法人税」のロジック

[第4回] 社長の報酬や退職金はなぜ自由に決められない?

[西中間 浩氏(弁護士、税理士)]
今回は、「役員報酬」についてみていきましょう。
「役員報酬」は、「交際費」や「寄附金」などと同じように、会計上は経費として計上できても、法人税務上はそのまま損金として計上することができません。
そこが納得できない! 社長の給与額を会社の判断で決めてはいけないといわれているようで不愉快だ。
まあ、怒らないで。もちろん、社長の給与は会社の判断で決めるものです。
ただし所得計算では、「課税の公平」も考えなくてはなりません。

“経費性のない”報酬とは

報酬や退職金は、通常、会社の毎期の利益額、対象となる役員や従業員の会社での地位や勤続年数、会社への貢献度などに応じて決まるものです。
会社の規模が大きくなると、不平等な取扱いにならないように、報酬の支給基準等を設けてそれに従って支給されることになると思います。

これらの給与は会社にとっては人件費に当たりますので、当期純利益を算出するにあたっては、当然に控除することができます。

では法人税でも、これらを同じように考えてよいものでしょうか?

法人税も、会計と同じく当期純利益から計算をスタートさせますから、実際に経費性のある人件費はそのまま控除できてよさそうですが、問題は、名目上は「報酬の支払い」となっているものの、どうみても経費性がないものをどう扱うかです。
それは、“本来なら払う必要のない報酬”ということですか?
極端な例でいうと、ほとんど会社に来ていない役員が社長と同じくらいの報酬を受け取っていたら、誰の目から見てもおかしいですよね。
でも、そういったおかしなことが実際に起こりうるのが「役員報酬」です。

どうしてかというと、報酬をたくさん支払って会社の利益を少なくしてしまえば、少なくした金額に法人税率を掛けた分だけ法人税は安くなります。
だったらこの際、会社への貢献などの要素はちょっと脇においといて、あまり働いていない役員にも報酬を余計に出したとしても、経営者としてはそれほど損をした気分にはなりません。
しかも、その役員が自分の奥さんや子どもだったら、めぐりめぐって家計の足しになるのでなおさらでしょう。

一度に多額の報酬を支払う退職金であれば、所得計算でマイナスとなった部分(欠損金)は9年間繰り越して使うことができますので、場合によってはしばらくの間、法人税をまったく納めなくてよい状態を作り出すこともできてしまいます。
まるで社長がたくさん退職金をもらったらいけないみたいに聞こえるが。
あれ、気を悪くしましたか。でも、そういうことではありませんよ。
社業への功績に見合った適正な報酬であれば、問題ないのです。

役員報酬を使った利益調整のリスク

たとえばある会社の社長さんが、「税金をたくさん払うぐらいなら……」と考えて、わざわざ欠損金(赤字)を作るために大規模な設備投資を繰り返したとします。
動機はやや不純(?)ですが、設備投資においては事業上の必要性や合理性を無視して行なうことはまずないでしょう。結果として、会社にとって有意義な設備投資が行なわれるのであれば、法人税法上、問題があるとはいえません。

そこへいくと役員報酬の支払いは、自分や仲間に恩恵をもたらすものですので、ある程度支払いの必要性や合理性を無視しても「まあ、いいじゃないか」と、なりやすいのです。

加えて報酬支払額の決定には会社ごとに個別の事情があり、そのような事情は外部からはなかなか認識しにくいものです。
そうなると、経営者としては恣意的に数字をいじりやすく、税務署からするといじったことがわかりにくい、ということになります。

もちろん役員報酬として会社の利益を外に出しすぎると、次の投資に回せる金額がそのぶん少なくなってしまいますので、経営者としてはその期の法人税のことだけを考えればよいわけではありません。
ですが、経営上問題のない範囲であれば、「ちょっとだけ報酬を水増しして法人税を少なくしよう」という誘惑にかられがちです。
役員報酬がダメなら、年度末に社員にたくさん給料(ボーナス)を払って利益調整すれば?
そうですね。そういったことはある程度は日常的にやられているところでもあります。
ただ従業員に対する給与については、そう簡単にはいかないんですよ。いったんこれを増やすと、あとになって理由もなく下げることは組合やら労働法やらの関係でなかなか難しいのです。

そのため、従業員への給与でこのような利益調整をすることは、従業員が身内である場合(特殊関係使用人)を除いて難しい側面があるのです。
しかし、役員についてはこういった難しさはありませんし、第三者が客観的に人事評価することも難しいものです。

それでも上場企業や規模の大きな会社では、株主の目や、他の役員の牽制もあるため、報酬額を社長が恣意的に決めることはなかなか難しいでしょう。
しかしながら、ワンマンのオーナー社長が支配する非上場の同族会社であれば、オーナー社長の好き放題に役員の報酬を決めても、文句をいえる人はほとんどいませんよね。
やろうと思えば簡単に“利益調整”ができてしまうのです。

このような形で「所得」や「法人税」が決まってしまうのは不公平です。
そのため、役員の報酬については法人税法上の損金算入に制限がかかっているのです。

損金算入できる「役員報酬」とは

利益調整は、だいたい期末に当期の利益状況をみて行ないますので、期末調整ができないような報酬、たとえば定期的に支払われている一定金額の報酬(定期同額給与)や事前に金額を税務署にあらかじめ届け出ているボーナス(事前確定届出給与)などに限っては、損金算入を認めましょう、という形となっています。

また、役員報酬でなければよいということで、従業員兼務役員の肩書(「取締役営業部長」とか)を与えたうえで従業員としての報酬部分で利益調整するといった悪だくみも予想されます。
そこでこういったことができないよう、社長・専務・常務クラスのランクの高い役員などについては、従業員としての報酬部分の損金算入を否定しています。
兼務役員じゃなくただの従業員なら問題ないんだな。
もしかして、社長なのに役員の肩書きを完全に外して従業員として報酬をもらおうなんて考えてないですよね……。
じつは国はそのような行動まで予測して、肩書きは役員でなくても、たとえば筆頭株主で実質的に経営を行なっているような者については役員とみなして(みなし役員)、報酬の規制を前もってかけることにしています。

さらに、「定期的に同額の給与を払えばいいんだね」ということで、はじめから働きに見合わない過大な報酬を定期的に支払うということも考えられます。
そこで、たとえ一定額を定期的に支給するのであっても、職務内容からして過大な支給については、過大部分につき損金算入を認めないという扱いになってきます。これは退職金も同様です。
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執筆者プロフィール

西中間 浩氏(弁護士、税理士)
外務省勤務を経て、東京大学大学院法学政治学研究科法曹養成専攻(ロースクール)修了。2011年1月より、鳥飼総合法律事務所弁護士。第二東京弁護士会(民事介入暴力対策委員会、国際委員会)所属。2019年5月より、税理士登録。主な取扱分野は、税務、企業法務、事業承継・相続など。
著書に『日本一やさしい税法と税金の教科書』(日本実業出版社)がある。
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