というのも、管理者の定義を正しく理解できていない場合、大きな労務トラブルに発展しかねないためです。
管理職だから当然、残業代を支払わなくてもよいと認識し運用されている経営者、人事担当者が多い印象を受けます。
ここで言う「管理職」という定義について、「①人事組織図上の定義」と「②労基法上の定義」に分けて考えることが重要になります。
(1)人事組織図上の管理職
皆様の会社において、人事組織における役職者は、どのような名称で、どのような役割、責任の程度、権限等がありますか。役職名称で言うと、主任、課長、室長、副部長、部長等で職位を決めている会社もあるかと思います。
この名称や定義等は、会社が独自に決めることができる事項です。
つまり、「会社ごとに定義が異なる」運用をしていることになります。
(2)労基法上の管理監督者
一方、労基法上の管理監督者とは、皆様ご存知のとおり、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者(労基法41条2号)」と定義されています。この定義に該当する場合、労働時間、休憩、休日に関する規定は適用除外となります。
この「監督若しくは管理の地位にある者」という表記を見て、人事組織図上の管理職を連想してしまうかもしれませんが、行政解釈において、以下のとおり具体的に示されています。
監督若しくは管理の地位にある者とは、部長、工場長等の名称にとらわれず、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体の立場にある者を指し、実態に即して判断すべき(昭22.9.13発基17号、昭63.3.14基発150号)
つまり、人事組織図における役職名が、課長、副部長、部長等、管理職としての職位名がついていたとしても、管理職としての実態がどうなのかによって、労基法上の管理監督者に該当するか否かが異なる、ということが行政解釈から読み取れます。では、管理職としての実態とは、どのようなことを言うのでしょうか?
(3)労基法上の管理監督者としての実態とは
先程の行政解釈にある「実態に即して判断」することは難しいのですが、過去の裁判例において、①職務内容、責任と権限、②勤務態様、③賃金等の待遇の3点を考慮して管理監督者性が判断されています。この3点を具体的に示すと以下のとおりです。
①職務内容、責任と権限
これらの観点を総合的に考慮して、労基法上の管理監督者性が判断されることになります。経営者と一体的な立場にあり、重要な権限と責任のある職務に従事していること
→労働時間規制を超えて活動することが要請される重要な職務と責任を担うこと
②勤務態様出退勤について厳格な規制を受けず、自己の勤務時間および就労日の自由裁量権を有していること
→何時に出社し退社するかなど勤務時間の拘束を受けないこと
③賃金等の待遇賃金、手当等の面でその地位にふさわしい待遇を受けていること
→時間外割増賃金が支払われていない代わりに、見合った十分な待遇を受けていること
したがって、単に賃金等の待遇が高額だから管理者である、ということではなく、また、単に経営者と一体的な権限があるから管理者である、ということでもありません。
今回のポイントは、「人事組織図上の管理職」と「労基法上の管理監督者」とは、定義が異なるということです。
労基法上の管理監督者については、押さえておくべき事項がたくさんあります。
次回のコラムでは、今回の3要素の運用時のポイントを解説していきたいと思います。