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「管理職に残業代を支払っていない」―――本当に大丈夫でしょうか?(その②)

2024年3月11日更新

人事労務News&Topics

「管理職に残業代を支払っていない」―――本当に大丈夫でしょうか?(その②)

[矢島志織(特定社会保険労務士)]
前回のコラムでは、労基法上の管理監督者とは、過去の裁判例から、①職務内容、責任と権限、②勤務態様、③賃金等の待遇を考慮して、総合的に判断されると述べました。
それぞれの要素を具体的に見ていきましょう。

(1)職務内容、責任と権限

「経営者と一体的な立場にあり、重要な権限と責任のある職務に従事していること」については、具体的に以下の点に注意することが求められます。

□会社の経営方針を決定する重要な会議に参画していること

この参画は、単に参加している状態、議事録をとっている状態ではなく、発言権があることまで求められます。
その発言権は、会議の前にだれかの承認を受けた内容をただ発言するような状態では認められませんので、注意が必要です。
 

□労務管理の権限を実質的に有していること

採用権、人事考課権、解雇権等の一定の人事権を有していることが必要です。
この人事権も、だれかの承認を受けた内容を伝達するに過ぎないような状態では、権限を有しているとは言えません。

(2)勤務態様

「出退勤について厳格な規制を受けず、自己の勤務時間および就労日の自由裁量権を有していること」については、具体的に以下の点に注意することが求められます。

□だれからの承認も受けずに労働時間を自分の裁量で決定していること

□遅刻、早退、欠勤控除がされていないこと

□休憩時間でない時間に中抜けをしても、賃金控除されることがないこと

□休日出勤や代休について、だれからの承認も受ける必要がないこと

(3)賃金等の待遇

「賃金、手当等の面でその地位にふさわしい待遇を受けていること」については、具体的に以下の点に注意することが求められます。

□管理監督者の職務に見合う十分な待遇を受けていること

地位にふさわしい待遇とは、管理監督者の「職務」に対して支払われたものであることが必要です。
たとえば、仕事の「成果」や、「残業に対する対価」として支払われた場合は、高待遇を受けていたとしても、地位にふさわしくないと判断されてしまいます。
 

□一般職の賃金額と管理職の賃金額の逆転が起こらないこと

一般職の残業代を含めた賃金額と、管理職の賃金額とを比べた際に、一般職の賃金額が高くならないことが必要です。
たとえば、1年間に支払われた賃金総額が、一般職の賃金総額よりも高くなるような賃金設計が求められます。
管理監督者性は、これら3つの要素から総合的に判断されるものではありますが、最近の裁判例では、勤務態様に裁量性があることと、地位にふさわしい待遇は認められたものの、職務権限が管理監督者にふさわしい重要なものではない、として、すべての判断要素を満たすことが求められました(日産自動車事件・横浜地判平31.3.26)。

さて、皆さんの会社では、適正な管理監督者の運用ができているでしょうか。
「①人事組織図において管理職ではあるが、労基法上の管理監督者ではない者」と「②人事組織図において管理職であり、かつ、労基法上の管理監督者である者」に区分けし、①に該当するのであれば、管理職者であっても残業代を支払うことが必要になります。
これらの要件と貴社の実態を見直し、労基法上の管理監督者の正しい運用を行ないましょう。
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2024年5月8日(水)~5/10(金) 東京ビッグサイト

連載「人事労務News&Topics」

執筆者プロフィール

矢島志織氏(特定社会保険労務士)
社会保険労務士法人 志‐こころ‐特定社労士事務所 代表社員/KOKORO株式会社代表取締役。SEとして人事系システム開発に従事後、中小企業や上場企業の人事部を経験し、勤務社労士を経て独立。豊富な現場経験を強みに、企業全体の労務リスクを分析し、人事労務DD、IPO支援、人事制度、就業規則の見直し等を行う。また現場の声を聞きながら、人事労務セミナーや企業研修講師を行う等、多数の講演実績あり。著書として『労働条件通知書兼労働契約書の書式例と実務』(日本法令)、『IPOの労務監査 標準手順書』(日本法令)など。
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