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専門家コラム Professional Eye

2019年8月26日更新

消費税率アップ(10月1日)前後の取引で想定されるNG集

[第3回] 受け取った区分記載請求書等を確認しないのはNG

[高岸直樹氏(税理士・二松學舍大学国際政治経済学部准教授)]

消費税率が10%に上がるとともに軽減税率が導入されます。10%と8%という二つの税率が併存するわけですが、社内での周知はお済みでしょうか。全社員にたいして、経理担当者から特に注意して伝えておきたいことをピックアップして解説します。

ある日のエヌ商事株式会社の営業部

消費税率アップの社内教育資料を見ていたAさん、経費精算に関する注意事項を見つけたのですが・・・。

Aさん「この『経費精算のための区分記載請求書等』に関する説明なんだけど、よくわからないよ。」

Bさん

「なにが問題?」
Aさん「そもそも自分が立て替えて払ったときに『請求書』を受け取るってどういうことだ?」

Bさん

「領収書じゃないの? 領収書も『区分記載請求書等』にあたるらしいよ。」
Aさん「領収書が『請求書』にあたるのか。訳わかんないよ。」
Bさん「用語って難しいね。『等』ってついてるからね。」
Aさん「なるほど。でも、これまでも領収書はもらっているよ。なぜ、今になって『区分記載請求書等』を受け取れっていうんだろう。」
Bさん「軽減税率が適用される取引と標準税率による取引とに区別するためらしいよ。これまでと違って『区分記載請求書等』には、区別した金額が税込で記載されるんだって。」
Aさん「もし、従来通りの領収書をもらったら、どうなるの?」
Bさん「そのままでいいんじゃない? 受け取った側で領収書に書き変えるのもおかしいしね。」

いえ、そのまま保存するのはNGです!

1. 区分記載請求書等保存方式の導入

第1回と第2回で説明したように、今回の消費税率引き上げにあたり軽減税率が導入され、消費税率が複数となります。

これまでは単一税率でしたから、取引ごとに、消費税課税取引か否かを判定さえすれば、課税取引の税込取引金額を合計し、その108分の6.3(国税部分)を仕入税額控除の金額として計算することができました(注1)。
消費税の課税取引である証憑書類として請求書等と、課税仕入等に関して記載要件を満たした帳簿を保存すれば良かったのです(以下、「請求書等保存方式」といいます)。

(注1)計算の特例の適用を受けることもできます。

しかし、複数税率のもとでは、この請求書等保存方式では、軽減税率が適用された取引額が判明せず、結果、仕入税額控除の計算ができない事態に陥ります。

そこで、仕入税額控除にあたり、それぞれの税率が適用される取引の金額を記載した請求書等を保存する方式(「区分記載請求書等保存方式」)が導入されることになりました。
この区分記載請求書等保存方式は、いわゆるインボイスを保存する方式(「適格請求書等保存方式」)が採用されるまでの経過措置であり、令和5年9月30日までの取扱いとされています。

2. 保存する区分請求書等

「請求書等」とは、納品書、請求書、領収書等のほか、課税仕入をした事業者が所定の記載事項のある書類を作成し販売者が確認したものなどを含みます。

これまでの請求書等保存方式で、販売者が交付する請求書等に記載する内容は、つぎの通りです。
<請求書等の記載内容>

①請求書等を作成した者の氏名または名称
②課税資産の譲渡等を行った年月日
③課税資産の譲渡等に係る資産または役務の内容
④課税資産の譲渡等の対価の額
⑤請求書等の交付を受ける事業者の氏名または名称
(消費税法30条9項1号)
区分記載請求書等保存方式では、この表の内容に加え、
⑥軽減税率の対象品目である旨
⑦税率ごとに合計した税込対価の額
が加わります。

つまり、仕入税額控除にあたり、現行の請求書等に記載されるべき要件に加えて、軽減税率が適用される品目が含まれる取引の場合には、その品目が軽減税率適用取引であることを※印などで明示し、「標準税率による取引金額」「軽減税率による取引金額」を区分して記載した請求書を保存することが求められることになりました(「区分記載請求書等保存方式」)。
軽減税率が適用される品目が含まれない取引であれば、保存するのは「標準税率による取引金額」だけが記載された請求書で問題ありません。

なお、区分記載請求書等保存方式では、税率ごとの消費税等の金額の記載は要件とされていません。しかし、区分記載請求書等保存方式は経過措置であり、その後適用される適格請求書等保存方式では、適格請求書に税率ごとの消費税等の金額記載が要件とされていますので、実務的には早めの対応が望ましいでしょう。

なお、税込の支払額が30,000円未満の場合には、請求書等の保存は必要なく、法定事項(後述)が記載された帳簿の保存のみでよいとされています。
また、税込の支払額が30,000円以上であっても請求書等の交付を受けなかったことにやむをえない理由があるとき(注2)などの場合は請求書等の保存がなくても仕入税額控除を受けることができます(消費税法30条7項、消費税法施行令49条1項、消費税法基本通達11-6-2から4)。

(注2)この場合には、帳簿に法定記載事項に加え、やむをえない理由と相手方の住所または所在地を記載しなければなりません。

3. 請求書等に区分記載がない場合

この区分記載請求書等は、課税資産の譲渡等をする者に、発行を義務付けてはいません。このため、受け取った請求書等に、本来記載されるべき「軽減税率適用品目である明示」「軽減税率による取引金額」が記載されていないことも考えられます。

そのため、この2点につき記載事項に不備のある請求書等を受け取った場合、受領者側で追記することが認められています(改正法附則34条3項)。
購買や経費精算などにあたっては、受け取った請求書等を確認し、記載事項に不備があるときは、事実に基づいて追記しなければなりません。

4. 帳簿への記載

区分請求書等保存方式でも、法定記載事項を記載した帳簿の保存が必要です。区分請求書等保存方式では、従来の請求書等保存方式での法定記載事項に加え、「軽減税率の対象品目である旨」の記載が必要です。請求書等と同様に、※印などで明示すれは良いものと考えられています。
<請求書等保存方式での課税仕入れの場合の帳簿記載事項>

①課税仕入れの相手方の氏名又は名称
②課税仕入れを行った年月日
③課税仕入れに係る資産または役務の内容
④課税仕入れに係る支払対価の税込額
区分記載請求書等保存方式では、この表の内容に加え、
⑤軽減税率の対象品目である旨
が加わります。
執筆者プロフィール
高岸直樹氏(税理士・二松學舍大学国際政治経済学部准教授)
1998年、税理士登録(税理士高岸俊二・直樹事務所)。上場会社からベンチャー企業まで、ニーズに応じた税務実務、経営を指導する一方、大学では会社法や金融商品取引法講義の教鞭をとり、税務と企業法務の両分野に精通。租税、及び会社法などに関する執筆多数。2016年より二松学舎大学国際政治経済学部准教授(会社法、事業再生論)。