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[第4回] 9月中の取引と10月中の取引を区別しないのはNG

2019年9月13日更新

消費税率アップ(10月1日)前後の取引で想定されるNG集

[第4回] 9月中の取引と10月中の取引を区別しないのはNG

[高岸直樹氏(税理士・二松學舍大学国際政治経済学部准教授)]

ある日のエヌ商事株式会社の経理部

営業部のAさんとBさんが困り果てた顔で経理部のCさんと話しています。
どうしたのでしょう?

Aさん「こんにちは。」
 
Bさん「消費税率引き上げの件で、10月1日を挟む取引について、教えてほしいのですが。」

Cさん

「どうしました?」
Aさん「9月中に受注したものは、商品が間に合わなくて10月に引き渡した場合でも、改正前の税率で販売して大丈夫ですよね?」

Cさん

「いえ、通信販売の場合などの経過措置はありますが、いまの例だと国に対しては改正後の消費税率で納付しなければいけませんね。」
Bさん「えっ、そうなんですか。お客さんから払ってもらえないと当社負担になるなあ。」

Cさん

「受注時に、引き渡しが10月以降となったら、改正後の税率で精算することを説明しておかなければいけませんね。」
Bさん「当社は出荷基準ですね。9月30日に出荷し、お客さんに10月1日に到着して検収した場合に、お客さんが検収基準であれば、税率はどちらが適用されるのですか?」

Cさん

「9月30日に資産の譲渡をしたので、改正前の税率が適用されます。お客さんに改正前の税率を適用した請求書を発行するので、お客さんも改正前の税率が適用されますね。」
Aさん「では、取引先との契約により20日締で請求書を発行する場合、9月21日からの分は、10月20日までの期間で請求するので、すべて改正後の税率でいいですか?」

Cさん

「いえ、9月30日までの引き渡し分は改正前の税率が適用されます。9月30日までの販売と、10月1日以降の販売で分けてください。」
Bさん「もうひとつ。9月中に販売した商品が10月に返品された場合、返品は改正後の取引なので、改正後の税率で返品を受け入れていいですね。」

Cさん

「それもダメです。返品されたときの消費税率は、販売時点の消費税率が適用されるので、改正前の税率ですね。」
Bさん「これは大変だ。」

1. 10月1日前後の取引に適用される税率

令和元年10月1日(施行日)より消費税率が引き上げとなりますが、具体的には、原則として、
・施行日以後に国内において事業者が行う資産の譲渡等
・施行日以後に国内において事業者が行う課税仕入れ
に改正後の税率が適用されます。

このため、施行日までに契約しても、資産の譲渡等が施行日後となった場合は、原則として改正後の税率が適用されます。

この「資産の譲渡等」がいつ行われたかについては、例えばつぎの取引では、原則として以下の日とされています。
・棚卸資産…引渡しの日
(消費税法基本通達9-1-1)
・固定資産…引渡しの日
(消費税法基本通達9-1-13)
・請負(物の引渡しを要するもの)…目的物の全部が完成して引き渡した日
(物の引渡しを要さないもの)…約した役務の全部を完了した日
(消費税法基本通達9-1-5)
 
また、販売側が出荷基準、仕入側が研修基準であったとしたら、どうでしょうか。
例えば、販売側が9月30日(施行日前)に出荷して、資産の譲渡等があったものとして改正前の税率を適用したとします。この場合、仕入側が10月1日(施行日後)に受け取り、検収したことをもって仕入を計上したとしても、この取引には改正前の税率が適用されます(国税庁「平成31年(2019年)10月1日以後に行われる資産の譲渡等に適用される消費税率等に関する経過措置Q&A【基本的な考え方編】」問3参照)。

そのため、消費税率引き上げ前後に行なわれる取引について、仕入側は、取引先の請求書等により適用された税率を確認する必要があります。

2. 経過措置

しかし、つぎの取引については、経過措置が設けられています。
○工事の請負等(製造の請負、ソフトウェアの製作等類する契約を含む)
平成31年4月1日を指定日とし、その指定日前に締結した契約については、譲渡等が施行日後であっても改正前の税率を適用する。
この経過措置を適用する場合には、相手方に書面で通知しなければならない。
○資産の貸付け
指定日(平成31年4月1日)前に締結した契約に基づき、施行日後引き続き資産の貸付けを行っている場合、要件を満たせば改正前の税率を適用する。
○通信販売
指定日(平成31年4月1日)前に販売価格等の条件を提示し、または提示する準備を完了した場合に、施行日前までに申込みを受け、提示した条件に従って施行日後に商品を販売した場合は、改正前の税率を適用する。
ただし、軽減税率が適用される場合には、経過措置は適用しない。
このほかの経過措置としては、以下があります。

○長期割賦販売等
○旅客運賃等
○電気料金等
○予約販売に係る書籍等
○特定新聞
○有料老人ホームの入居一時金
○家電リサイクル法に規定する再商品化等

3. 締日との関係

仕入れ、販売とも、1か月程度の期間を定め、期間の末日を締日として、締日までの期間の取引をまとめて請求する約定となっていることが一般的ですが、この締日が月末とは限りません。

例えば20日を締日としている場合、9月21日から9月30日までの取引は、10月分として請求することとなります。

しかし、9月30日までの取引については、施行日前の取引として改正前の税率が適用されます。
取引の実情によっては、9月30日で一旦区切り、請求書を作成するほうが良いケースもあるでしょう。

4. 返品への対応

販売した商品が施行日後に返品された場合、
・施行日に販売した商品は、改正の税率により、
・施行日に販売した商品は、改正の税率により、
「売上げに係る対価の返還等に係る消費税額」の計算を行います。

このため、返品された商品の受け入れにあたっては、当社での販売日を確定させる必要があります。

しかし、同一商品を頻繁に販売しているため、個々の商品について当社がいつ販売したのか追跡できないケースも考えられます。

このようなケースでは、当月中の返品を、前月の販売分に対応する返品として事業者が継続して取り扱っている場合には、10月中の返品は9月の販売分に対応する返品として、改正前の税率を適用することが認められています(国税庁「平成31年(2019年)10月1日以後に行われる資産の譲渡等に適用される消費税率等に関する経過措置Q&A【基本的な考え方編】」問4参照)。

このように取り扱っている場合には、請求書等に適用税率を明記し、取引の相手方は請求書等に記載された税率により「売上げに係る対価の返還等に係る消費税額」の計算を行うものとされています。
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執筆者プロフィール

高岸直樹氏(税理士・二松學舍大学国際政治経済学部准教授)
1998年、税理士登録(税理士高岸俊二・直樹事務所)。上場会社からベンチャー企業まで、ニーズに応じた税務実務、経営を指導する一方、大学では会社法や金融商品取引法講義の教鞭をとり、税務と企業法務の両分野に精通。租税、及び会社法などに関する執筆多数。2016年より二松学舎大学国際政治経済学部准教授(会社法、事業再生論)。
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