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専門家コラム Professional Eye

2019年9月26日更新

消費税率アップ(10月1日)前後の取引で想定されるNG集

[第5回] 免税事業者との取引はNGになるの?

[高岸直樹氏(税理士・二松學舍大学国際政治経済学部准教授)]

消費税率が10%に上がるとともに軽減税率が導入されます。10%と8%という二つの税率が併存するわけですが、社内での周知はお済みでしょうか。全社員にたいして、経理担当者から特に注意して伝えておきたいことをピックアップして解説します。

ある日のエヌ商事株式会社の経理部

経理部で、免税事業者との取引について話題になっているようです。どうしたのでしょう?

Aさん

「免税事業者は消費税を納めていないんだよね。当社が仕入税額控除を受けるときに、相手先が免税事業者だったらどうなるのだろう?」
Bさん「現在は、相手先が免税事業者であっても、課税取引であれば仕入税額控除を受けることができます。」

Aさん

「10月1日からは区分記載請求書等を保存する方式になるけれど、変わるのかな。」
Bさん「変わりません。区分記載請求書等保存方式のもとでも、免税事業者との取引で仕入税額控除を受けることができます。」

Aさん

「じゃあ、免税事業者との取引を見直す必要はないね。」
Bさん「はい。ただ、令和5年10月からの適格請求書等保存方式では事情が変わります。」

Aさん

「適格請求書等保存方式って?」
Bさん「インボイス制度のことです。この10月からの区分記載請求書等の記載事項に加えて、適格請求書発行事業者としての登録番号を記載したものになります。」

Aさん

「また制度が変わるんだね。仕入税額控除には、適格請求書等が必要になるの?」
Bさん「はい、必要です。」

Aさん

「そうすると、免税事業者でも、適格請求書等を作ってもらわないといけないね。」
Bさん「いえ、適格請求書発行事業者に必要な登録番号は課税事業者でないと取得できません。ですから、免税事業者は適格請求書等を発行できないということになります。」

Aさん

「そうすると、免税事業者と取引しても、仕入税額控除は受けられないのか。今後は、免税事業者との取引を考えないといけないのかなあ。」
Bさん「経過措置はあるのですが、当社への影響を調べないといけませんね。」

1. 適格請求書等保存方式の導入

課税事業者の仕入税額控除のためには、これまで請求書等を保存することが必要とされていましたが(請求書等保存方式)、令和元年10月1日から軽減税率制度が導入されるのに伴い、標準税率による取引と軽減税率による取引を区分した区分記載請求書等を保存することが必要とされます(区分記載請求書等保存方式)。

しかし、これらの方式では、免税事業者との取引についても仕入税額控除が可能であるなど、消費税の課税が適正に行われておらず、販売側が仕入側に適用税率や消費税額を通知するインボイス制度を導入すべきという意見がありました。

そこで、課税事業者を登録制としたうえで、
● 請求書等に課税事業者の登録番号を記載する
● 請求書等の発行と写しの保管を義務付ける
といったことで、課税取引を把握する仕組みを整備します。
これが適格請求書等保存方式であり、令和5年10月1日より導入される予定です。

適格請求書等の内容としては、令和元年10月からの区分記載請求書等に、適格請求書発行事業者としての登録番号を記載するものとなります。
なお、不特定多数の者に対して販売等を行う事業者については記載事項を簡易なものとした簡易適格請求書の発行が認められます。

2. 適格請求書発行事業者

適格請求書発行事業者となるためには、令和3年10月1日以降、所轄税務署に登録申請書を提出します。適格請求書等保存方式の導入時期となる令和5年10月1日に登録を受けようとする事業者は、令和5年3月31日までに登録申請書を提出しなければなりません(所得税法等の一部を改正する法律附則44条1項)。

税務署長は、登録申請書が提出されると、審査のうえ、登録拒否事実がなければ、適格請求書発行事業者登録簿に登録し、事業者に登録番号(法人の事業者では「T」+「法人番号」)を通知します。

この登録内容は国税庁のウェブサイトに公開され、登録番号から事業者を検索することができるようになる予定です。なお、登録後も、事業者が一定の事実に該当したときは、税務署長は登録を取り消すことができます。

請求書等保存方式や区分記載請求書等保存方式では、事業者に要件を満たした請求書等の発行を義務付けていません。
しかし、令和5年10月1日以降、この適格請求書発行事業者登録簿に登録されると、課税事業者との取引では適格請求書などの発行が義務付けられます。
また、適格請求書などを発行したときは、その写しを保存しなければなりません(要件を満たす場合はデータでの保存も可能)。また、不正発行については罰則があります。

3. 仕入税額控除と免税事業者との取引

適格請求書等保存方式の導入後も仕入税額控除を受けるためには、帳簿を記載しなければなりませんし、原則として適格請求書等を保存しなければなりません。

現在では3万円未満の課税取引では帳簿の記載のみで仕入税額控除を受けることができますが、この措置も廃止されます。適格請求書等を保存せずに仕入税額控除を受けることができるのは、政令(消費税法施行令49条1項)で認められる取引のみに限られるので注意が必要です。

この適格請求書発行事業者には課税事業者のみが登録できます。つまり、免税事業者は登録できません。このため、免税事業者と取引するときに、免税事業者は適格請求書等を発行できず、仕入側は保存義務を果たせないため、その仕入税額控除を受けることができません。
(注)仕入税額相当額の一定割合を仕入税額として控除できる経過措置があります。
適用条件|
区分記載請求書等と同様の事項が記載された請求書等を記載し、帳簿に経過措置の適用を受ける旨を記載したとき
適用期間|

○令和5年10月1日から令和8年9月30日まで
⇒ 仕入税額相当額の80%。

○令和8年10月1日から令和11年9月30日まで
⇒ 仕入税額相当額の50%。

請求書等保存方式や区分記載請求書等保存方式では、免税事業者との取引であっても、課税取引にあたれば仕入税額控除ができたため、免税事業者との取引が大きな問題とはなりませんでした。

しかし、適格請求書等保存方式のもとでは、自己の仕入税額控除に影響する問題となります。このため、経過措置があるものの、一般課税の事業者では、今後、免税事業者との取引を見直す動きが生じる可能性があります。

他方、免税事業者も、課税事業者を選択すれば、適格請求書発行事業者となることができます。事業者との取引が多い免税事業者は、この取引見直しへの対策として、課税事業者を選択することも検討課題となるでしょう。
執筆者プロフィール
高岸直樹氏(税理士・二松學舍大学国際政治経済学部准教授)
1998年、税理士登録(税理士高岸俊二・直樹事務所)。上場会社からベンチャー企業まで、ニーズに応じた税務実務、経営を指導する一方、大学では会社法や金融商品取引法講義の教鞭をとり、税務と企業法務の両分野に精通。租税、及び会社法などに関する執筆多数。2016年より二松学舎大学国際政治経済学部准教授(会社法、事業再生論)。