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2023年4月より「賃金デジタル払い」が始まります!

2022年12月12日更新

人事労務News&Topics

2023年4月より「賃金デジタル払い」が始まります!

[矢島志織(特定社会保険労務士)]
労働基準法施行規則が改正され、2023年4月より賃金の支払方法として「賃金デジタル払い」が選択肢の一つとして追加されます。
本コラムでは、法改正の内容や導入方法等について解説します。

改正の背景としては、昨今、キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進み、資金移動業者の口座への資金移動を給与受取りに活用するニーズも一定程度みられること等があります。そうしたことを踏まえ、労働者の同意を得た場合、一定の要件を満たす資金移動業者の口座へ資金移動による賃金支払い(以下、「賃金デジタル払い」といいます)が可能になります。具体的には、賃金を○○ペイで支払うことができる、ということです。

この制度は、使用者が必ず導入しなければならない、というものではなく、使用者が賃金の支払方法の選択肢として「賃金デジタル払い」で支払うことを希望すれば、導入することができます。
また、労働者も「賃金デジタル払い」で賃金の受取りを希望するのであれば、個別に同意をすることにより可能になります。
要は、会社と労働者の双方が希望することにより制度を適用するもので、決して強制するものではありません。

(1) 改正の内容

現在の法律は、賃金の支払方法を「通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない(労働基準法第24条)」と定めています。
また、労働者が同意した場合、通貨払いの原則の例外として、①銀行口座、②証券総合口座への賃金支払いが認められています(労働基準施行規則第7条の2)。
今回、労働基準法施行規則の改正により、2023年4月から賃金の支払い・受取り方法の選択肢に、「賃金デジタル払い」が新たに加わります。
『賃金の支払い・受取り方法』

・原則:通貨(現金)払い

・例外(労働者の同意を得た場合):①銀行口座、②証券総合口座、③賃金デジタル払い

(2) 制度導入の流れ

使用者が賃金の支払方法の選択肢の一つとして、「賃金デジタル払い」を導入する場合、次の流れで導入を進めることになります。
<制度導入の主な流れ>

①就業規則等の改定
賃金の支払方法について、現金払いや銀行振込方法のほか、「デジタル払い」の方法がある旨を明示します。

②労使協定の締結
労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合と、ない場合は労働者の過半数を代表する者と「賃金デジタル払いの対象となる労働者の範囲や取扱指定資金移動業者の範囲等を記載した労使協定」を締結します。

③労働者と個々の同意
賃金デジタル払いを希望する個々の労働者は、留意事項等の説明を受け、制度を理解したうえで、同意書に賃金デジタル払いで受け取る賃金額や、資金移動業者口座番号、代替口座情報等を記載して、使用者に提出します。

●参考書式:「資金移動業者口座への賃金支払に関する同意書(参考例)」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001017091.pdf

(3) 注意事項

賃金デジタル払いを導入する場合、その他の賃金の支払方法の選択肢として、現金または賃金デジタル払い以外にも、銀行口座または証券総合口座への賃金支払方法も併せて提示することが必要です。
<賃金の支払方法の選択肢>

現金または銀行口座
現金または証券総合口座
現金または銀行口座または賃金デジタル払い
現金または証券総合口座または賃金デジタル払い

なお、会社が賃金支払方法の選択肢として、現金または賃金デジタル払いの2つの選択肢のみを労働者へ通知した場合や形式的に選択肢を提示していたとしても、実質的に労働者に賃金デジタル払いを強制している場合には、労働基準法第24条に違反し、罰則(30万円以下の罰金)の対象となりますので注意しましょう。

(4) 導入に向けて

前述のとおり、賃金デジタル払い制度の導入は、使用者の判断によるものです。
今回の賃金デジタル払いにかかわらず、組織として「新しい制度を導入する」というプロジェクトを進めるうえでは、労働者のニーズを調査・分析することも必要になります。労働者と対話しながら進めることができれば、労働者の会社に対する想いが深まり、よりよい組織の発展につながるかもしれません。まずは、労働者の声を聞いてみてはいかがでしょうか。
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連載「人事労務News&Topics」

執筆者プロフィール

矢島志織氏(特定社会保険労務士)
社会保険労務士法人 志‐こころ‐特定社労士事務所 代表社員/KOKORO株式会社代表取締役。SEとして人事系システム開発に従事後、中小企業や上場企業の人事部を経験し、勤務社労士を経て独立。豊富な現場経験を強みに、企業全体の労務リスクを分析し、人事労務DD、IPO支援、人事制度、就業規則の見直し等を行う。また現場の声を聞きながら、人事労務セミナーや企業研修講師を行う等、多数の講演実績あり。著書として『労働条件通知書兼労働契約書の書式例と実務』(日本法令)、『IPOの労務監査 標準手順書』(日本法令)など。
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