前回「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」に続き、「有期労働契約に関する労働条件の明示」について改正内容等を解説していきます。
(1) 更新上限の明示
2024年4月より、有期労働契約の締結と契約更新のタイミングごとに「更新上限の有無」と「更新上限がある場合、その内容」の明示が必要になります。なお、更新上限とは、有期労働契約の通算期間または更新回数の上限のことを指し、たとえば「通算契約期間2年まで」「契約更新の回数3回まで」と明示することになります。
本内容の労働条件明示例は、次の通りです。
労働条件通知書 兼 労働契約書
1.株式会社△△△△(以下「会社」という。)と ○○○○(以下「本人」という。)とは、以下の条件により労働契約を締結する。
雇用期間 | ○年○月○日~○年○月○日 |
更新 |
1.契約更新の有無:契約の更新をする場合があり得る 2.契約の更新は、次のいずれかにより判断する ・契約期間満了時の業務量 ・従事している業務の進捗状況 ・本人の能力、業務成績、勤務態度 ・会社の経営状況 3.更新上限の有無【 無 ・ 有 (更新○回まで/通算契約期間○年まで)】 |
(2) 更新上限を新設・短縮する際の説明
有期労働契約の締結と契約更新において、下記のいずれかの条件とする際、有期契約労働者に対し、有期労働契約の「更新上限を設ける理由」または「更新上限を短縮する理由」をあらかじめ説明することが必要になります。①最初の契約締結より後に、契約上限を新たに定める場合
②最初の契約締結の際に設けていた契約上限を短縮する場合
いずれにせよ、後出しする労働条件については、背景等を労働者にきちんと説明をしないと、労働者は納得しませんので、とても重要な改正の1つといえます。
(3) 無期転換申込機会の明示/無期転換後の労働条件の明示
続いての改正内容を解説する前に、2013年4月より施行されている「無期転換ルール」について少し確認しておきましょう。*無期転換ルールとは*
同一の使用者との間で、有期労働契約が通算5年を超えて更新された場合、労働者からの申込により、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できる制度です(労働契約法18条)。
なお、有期労働契約は、2013年4月以降の契約が通算対象となります。 今回の改正により、「無期転換を申し込む権利」が発生する契約更新のタイミングごとに、「無期転換を申し込むことができる旨」の明示が必要になります。
つまり、無期転換を申し込む権利が発生した有期契約労働者に対し、「あなたは無期転換できますよ」と明示してあげることになります。
また、同じタイミングで、「無期転換後の労働条件の明示」も必要になります。 本内容の労働条件明示例は、次のとおりです。
労働条件通知書 兼 労働契約書
1.株式会社△△△△(以下「会社」という。)と ○○○○(以下「本人」という。)とは、以下の条件により労働契約を締結する。
雇用期間 | ○年○月○日~○年○月○日 |
契約期間 |
1.契約更新の有無:契約の更新をする場合があり得る 2.契約の更新は、次のいずれかにより判断する ・契約期間満了時の業務量 ・従事している業務の進捗状況 ・本人の能力、業務成績、勤務態度 ・会社の経営状況 3.更新上限の有無【 無 ・ 有 (更新○回まで/通算契約期間○年まで)】 |
(労働契約法に定める同一企業との通算契約期間が5年を超える有期労働契約の締結の場合) 本契約期間中に、会社に対して期間の定めのない労働契約(無期労働契約)の締結の申込をしたときは、本契約期間の末日の翌日から、無期労働契約での雇用に転換することができる。この場合の本契約からの労働条件の変更の有無(無・有(別紙の通り)) |
明示にあたっては、他の通常の労働者(無期雇用フルタイム、正社員等のいわゆる正規型の労働者)との均衡を考慮した事項(たとえば、業務の内容、責任の程度、異動の有無・範囲等)について、有期契約労働者に説明するように努めなければなりません。
2回にわたり、労働条件の明示に関する改正内容を解説しました。来年4月のルール改正に向けて、あらためて無期契約労働者の定義、労働条件等の処遇の整理、転換制度などを見直す時期かもしれません。
有期労働契約から無期労働契約への転換制度を作る場合、次のようにいろいろなパターンが考えられます。
・有期契約の時給パートから、契約期間だけ無期へ転換する無期労働契約 |
・有期契約の月給社員から、契約期間だけ無期へ転換する無期労働契約 |
・有期契約の月給社員から、正社員の労働条件へ転換する無期労働契約 |
・有期契約の月給社員から、限定正社員の労働条件へ転換する無期労働契約 |