この10分間は始業時刻前の時間に当たりますが、労働時間になるのでしょうか。
所定労働時間とは
所定労働時間とは、労働契約上の労働時間を指し、就業規則、労働契約書等によって定められます。この時間内は、会社が労働者に対し指揮命令を行なう時間であり、労働者にとっては労働義務のある時間となります。会社が労働者に対し指揮命令ができるのは所定労働時間内で、所定労働時間外は「指揮命令ができない時間」です。
今回の事例では、始業時刻の9:00より前の時間は指揮命令ができない時間になるため、本来、業務として掃除をさせることはできません。
ではここで、会社からの指揮命令がなく、労働者が自ら掃除をしていた場合は、どのような時間になるのでしょうか。
これを考えていくうえで、そもそもの労働基準法上の労働時間について見ていきましょう。
労働基準法上の労働時間とは
明確な定義はありませんが、三菱重工業長崎造船所事件において、「労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かによって客観的に定まるものであり、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない」と判示されました。「労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない」とは、どういうことでしょうか。
たとえば、所定労働時間内において、使用者の許可を得て私用外出で労働をしていない時間があった場合、労働から解放されており使用者の指揮命令下に置かれた時間ではないため、労働時間とはなりません。
つまり、労働契約等において所定労働時間が定められていたとしても、実際に労働をしているか否かで判断するということです。
一方、所定労働時間外であったとしても、実際に労働をしている場合には、「使用者の指揮命令下に置かれ、労働に従事している時間」であり、労働時間になります。
さらに重要な点は、上司からの明確な指揮命令がなく、「黙示の指示」のもとで行なわれる場合も労働時間に含まれるということです。
たとえば、残業を行なっていることを認識しつつ使用者がこれを黙認・許容している場合、使用者の関与があるとして、労働基準法上の労働時間に該当します。
今回のケースは、始業時刻前であっても、会社の業務命令により掃除をしているのであれば、もちろん労働時間としてカウントする必要があります。
「会社として業務命令を出していない」「労働者の自由な意思の下、掃除をする人としない人がいても会社として注意・指導をしない」「人事評価にも影響がない」という状況であれば、労働時間と扱わなくてもよいでしょう。
とはいえ、会社には「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をすること」── すなわち「安全配慮義務」が課されています。
掃除が行き届いた清潔な労働環境でなければ、「働こう」という気持ちは起きませんよね。だれかが対応しなければならないことなのであれば、それは一つの仕事として捉え、掃除の時間は労働時間とすることが必要なのではないか、と考えます。
たかが10分と思われるかもしれませんが、月に210分とすると、1年では2,520分になります。未払い賃金の請求時効が3年ですので、3年分にすると7,560分(126時間)です。現在の東京都の最低賃金1,113円で換算すると約14万円、労働者が20名いた場合、約280万円の未払い賃金となります。
「こんなハズじゃなかった」とならないためにも、労働時間に該当するのか否かの判断を再度、確かめてみてはいかがでしょうか。