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これだけは知っておきたい! トラブル防止のための就業規則の周知と説明会

2023年3月20日更新

就業規則で会社と従業員はしあわせになれるのか?

これだけは知っておきたい! トラブル防止のための就業規則の周知と説明会

[山本喜一氏(特定社会保険労務士、公認心理師、精神保健福祉士)]
最終回は、労働者への周知とトラブル防止のための工夫について考えてみましょう。

就業規則の作成や変更をした場合、労働基準監督署へ届出をする必要があります。
また、就業規則の内容を労働者に周知する必要もあります。

では、労働者に周知していて労働基準監督署に届出をしていない場合や、労働基準監督署に届出をしていて労働者に周知していない場合は、その就業規則は無効になってしまうのでしょうか。
結論から申し上げますと、

①労働者に周知していて労働基準監督署に届出をしていない場合
会社と労働者の間での契約内容として就業規則の内容は有効となりますが、労働基準法で定められている労働基準監督署への届出をしていないという違反となります。

②労働基準監督署に届出をしていて労働者に周知していない場合
労働基準法の届出に関する違反はありませんが、会社と労働者との間での契約内容としては無効ということになります。

「会社と労働者」と「会社と労働基準監督署」という2つの関係があるのでわかりにくいところだと思います。 参考として、労働契約法、労働基準法、労働基準法施行規則の関係条文を文末に記載しておきます。

「会社と労働者」の関係で、就業規則が有効になるためには周知が必要です。
周知については、厚生労働省令で定める方法として、労働基準法施行規則に次の記載があります。

・常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること

・書面を労働者に交付すること

・磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること

会社が労働者に就業規則を周知するには、事業場に備え付ける、書面を交付する、PCで見られるようするなど、さまざまな方法が考えられます。
もちろん、実質的に自由に見られる状態でないといけません。

たとえば、「怖い部長の後ろの棚に就業規則が保管してあって、部長の許可をとらないと見ることができない」という状況だとします。この場合、たとえ棚に鍵がかかっていないとしても、「本当に自由に見られるか」といえば、そうではないという判断になるでしょう。

法律的には周知についてここまでしか触れていませんが、労働者は労働に関する法律の専門家ではありませんから、就業規則を読んでも理解をすることが難しかったり、勘違いをしたりすることも多いと感じます。

また、就業規則の条文を書く場合、たった1つの意味にしかとれない書き方をすることが重要です。しかし、そうなっていない場合、人間は自分の都合のよいように解釈をする生き物ですので、会社の解釈と労働者の解釈が違うということも起こり得ます。


そこで、トラブルを防止するため、就業規則の作成時や変更時に労働者に対して説明会を行なうことは有用です。
特に新入社員については会社のルールなどを理解してもらう必要がありますので、理解が難しいところやトラブルになりやすいところを説明しておくことをおすすめします。

また、労働者にとって重要な内容(残業や休日出勤、有給休暇など)については、図解でわかりやすく説明したガイドブックを作成して配付するなど、いろいろと工夫するのもよいでしょう。


最後に覚えておいていただきたいのは、就業規則を労働基準監督署に提出する際、労働基準監督署は法律違反がないかという視点では見ますが、その就業規則が会社を守るために役に立つかという視点で見ることはありません。

争いになった場合、就業規則の内容について最終的に判断をするのは裁判所です。
もちろん、争いになることはないほうがいいに決まっています。
そのために、労働者との争いやすれ違いが起こらないように工夫することも重要です。
しかし、裁判で役に立たないような就業規則では、いざというときに会社が困ることになります。

皆が気持ちよく働けるように、そして会社を守れるように、「その一文」が本当に使えるものか、もう一度確認してみてください。
【参考条文】

●労働契約法
(労働契約の成立)
第七条 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。

●労働基準法
(作成の手続)
第九十条 使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
② 使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。

(法令等の周知義務)
第百六条 使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則、第十八条第二項、第二十四条第一項ただし書、第三十二条の二第一項、第三十二条の三第一項、第三十二条の四第一項、第三十二条の五第一項、第三十四条第二項ただし書、第三十六条第一項、第三十七条第三項、第三十八条の二第二項、第三十八条の三第一項並びに第三十九条第四項、第六項及び第九項ただし書に規定する協定並びに第三十八条の四第一項及び同条第五項(第四十一条の二第三項において準用する場合を含む。)並びに第四十一条の二第一項に規定する決議を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。
② 使用者は、この法律及びこの法律に基いて発する命令のうち、寄宿舎に関する規定及び寄宿舎規則を、寄宿舎の見易い場所に掲示し、又は備え付ける等の方法によつて、寄宿舎に寄宿する労働者に周知させなければならない。

●労働基準法施行規則
第五十二条の二 法第百六条第一項の厚生労働省令で定める方法は、次に掲げる方法とする。
一 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。
二 書面を労働者に交付すること。
三 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。
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執筆者プロフィール

山本喜一氏(特定社会保険労務士、公認心理師、精神保健福祉士)
社会保険労務士法人日本人事 代表。大学院修了後、経済産業省所管の財団法人で、技術職として勤務、産業技術総合研究所との共同研究にも携わる。その後、法務部門の業務や労働組合役員も経験。社外取締役として上場も経験。上場支援、多様性、メンタルヘルス不調者、ハラスメント、問題社員対応などを得意とする。講演、執筆なども多数行っている。
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