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新型コロナウイルスの影響を踏まえた下請取引の留意点

2020年5月15日更新

サポートクラブ 法務News&Topics

新型コロナウイルスの影響を踏まえた下請取引の留意点

[今津泰輝氏(弁護士)][坂本 敬氏(弁護士)]

納期遅れに関して

下請事業者が納期に遅れた場合、親事業者としては、下請事業者に対し、債務不履行責任を追及することが考えられます。ただし、納期遅れが下請事業者の責に帰することができない事由(以下、「不可抗力」といいます)による場合には、契約の内容にもよりますが、通常は、債務不履行責任を追及することはできません(民法415条)。
新型コロナウイルスの影響で納期遅れが発生している場合には、このような不可抗力に該当する可能性も十分にあります。もっとも、新たな感染症の流行は過去にも例のある事象であるところ、そのような事象に備えて合理的な措置を取っていれば納期遅れが生じなかったといえるのであれば、不可抗力には該当しません。そのため、不可抗力に該当するかどうかは、契約の内容を含む個別の具体的な事実関係に左右されます。
実際上は、以上を踏まえたうえで、下請事業者との間で、対応について十分な協議を行なうことが望ましいです。

コスト負担に関して

新型コロナウイルスの影響による原材料費の高騰等により、下請事業者の製造原価が高騰しているような場合、従来と同様の単価を適用することは、下請法で親事業者の禁止事項として定められている「買いたたき」(同種または類似の発注に対して通常支払われる対価に比べて著しく低い代金額を不当に定めること)(下請法4条1項5号)に該当するおそれがあります(下掲「東日本大震災に関連するQ&A」問11参照)。
そのため、下請事業者が製造原価の高騰を理由として単価の見直しを求める場合には、親事業者としては下請事業者との間で十分な協議を行なう必要があります。なお、協議の内容については、記録に残しておくことが望ましいです。
・「東日本大震災に関連するQ&A」(公正取引委員会)
https://www.jftc.go.jp/soudan/shinsaikanren/23jishinqa.html 

※上記の経済産業省の要請では、新型コロナウイルスに関しても、基本的な考え方は同様とされています。

支払いに関して

新型コロナウイルスの影響により、親事業者において、社内の事務処理に時間を要したり、取引先からの入金が遅れたりすることも考えられます。
もっとも、一般に、金銭債務については、不可抗力による免責の主張は認められません(民法419条3項)。また、下請法上も、親事業者の禁止事項として、下請代金の支払遅延が定められています(下請法4条1項2号)。
そのため、このような場合であっても、親事業者としては、下請事業者に対し、期日どおりに支払いを行なうことが必要となります。

発注の取消し・変更に関して

親事業者としては、新型コロナウイルスの影響により発注の取消し・変更を検討しなければならない場合も考えられます。
しかし、親事業者の都合により発注の取消し・変更を求めることは、下請法で親事業者の禁止事項として定められている「下請事業者の責に帰すべき理由がない場合における受領拒否」(下請法4条1項1号)や「不当な給付内容の変更」(下請法4条2項4号)に該当するおそれがあります(前掲「東日本大震災に関連するQ&A」問9参照)。
客観的にみて、親事業者が当初の納期に受領することが不可能である場合には、両者間で十分な協議を行なったうえで、納期を相当期間延長することは認められることもあります。その場合であっても、協議の内容については、記録に残しておくことが必要です(前掲「東日本大震災に関連するQ&A」問4)。
なお、親事業者の都合による場合ではなく、下請事業者が納期までに債務を履行しない場合に契約を解除することは、(不履行の理由が不可抗力によるものであったとしても、契約上解除が可能であれば、)下請法上も原則として問題ないと考えられます。
また、すでに行なった発注の取消し・変更ではなく、これから行なう発注に関しては、契約の内容にはよるものの、原則としては、発注を行なわないことも親事業者の自由です。
もっとも、実際上は、将来の円滑な取引も考慮すると、このような契約の解除や発注量の急激な減少の場合には、下請事業者との間で協議しておくことが望ましいです。
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2024年5月8日(水)~5/10(金) 東京ビッグサイト
執筆者プロフィール

今津泰輝氏(弁護士)
米国を本拠地とする大規模ローファームを経て、平成21年に今津法律事務所(現弁護士法人今津法律事務所)を開設し約10年。『なるほど図解 会社法のしくみ』(中央経済社)等著作、講演多数。①会社法・取締役の関係、②契約書作成・商取引・規定作成、③訴訟・トラブル解決支援、④中国ビジネス・海外との商取引等に取り組んでいる。


坂本 敬氏(弁護士)
平成27年1月に今津法律事務所(現弁護士法人今津法律事務所)入所。「判例から学ぼう!管理職に求められるハラスメント対策」(エヌ・ジェイ出版販売株式会社)等講演、著作多数。①会社法・取締役の関係、②契約書作成・商取引・規定作成、③訴訟・トラブル解決支援、④中国ビジネス・海外との商取引等に取り組んでいる。

弁護士法人今津法律事務所
http://www.imazulaw.com/

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