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消費者契約法に基づく利用規約に対する差止請求が認められた事例(第2回)

2021年5月17日更新

サポートクラブ 法務News&Topics

消費者契約法に基づく利用規約に対する差止請求が認められた事例(第2回)

[今津泰輝氏(弁護士)][坂本 敬氏(弁護士)]
前回に引き続いて、株式会社ディー・エヌ・エー(以下「DeNA」)が運営するポータルサイト「モバゲー」の利用規約の差止請求が認められた事例に関して、東京高裁の判決の概要と実務上の対応について紹介します。

判決の理由

判断枠組み

本判決は、①条項の文言から読み取ることができる内容が著しく明確性を欠き、複数の解釈の可能性が認められる場合に、②事業者が自己に有利な解釈に依拠して運用しているなど当該条項が不当条項として機能するときは、差止めの対象になる、という判断枠組みを述べ、それに従って判断しています。

①著しく明確性を欠き、複数の解釈が認められること

前回紹介したとおり、会員資格取消措置等について定めたモバゲー利用規約7条のうち、不当条項に該当するか争われたのは、3項(「当社の措置によりモバゲー会員に損害が生じても、当社は、一切損害を賠償しません。」)です。

本判決は、以下の理由により、7条3項は、会員資格取消措置等の要件を定めた7条1項c号e号(c号:「他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけたと当社が合理的に判断した場合」、e号:「その他、モバゲー会員として不適切であると当社が合理的に判断した場合」)との関係で、著しく明確性を欠き、複数の解釈が認められるとしています。

・7条1項c号は、「他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけた」という文言自体が客観的な意味内容を抽出し難く、その考慮要素や具体例も定められていないことから、「合理的な判断」の意味内容も著しく明確性を欠いている。すなわち、DeNAが、客観的には合理性がない会員資格取消措置等を、「合理的な判断」として行なう可能性があるところ、「合理的な判断」かどうか、消費者が判断することは著しく困難である。

・e号も、c号などと並列的な関係にあるところ、c号と同じ「合理的に判断した場合」という文言が用いられているため、c号の不明確性を承継する。

・7条3項も、①単に「当社の措置により」という文言が用いられ、限定が付されておらず、②消費者が7条1項c号e号該当性を判断することは困難であり、③「一切損害を賠償しません」と例外が認められていない。そのため、「DeNAにそもそも損害賠償責任が発生しない場合について、そのことを確認的に規定したものである(免責条項ではない)」と解することは困難である。

②不当条項として機能していること

そのうえで、以下の理由により、利用規約7条3項は、DeNAが自己に有利な解釈に依拠して運用しており、全部免責条項等の無効を定める消費者契約法8条1項1号および3号に該当する不当条項として機能しているとしています。

・DeNAは、自らの主張に反して、7条1項c号e号の文言を、「合理的な根拠に基づく合理的な判断」という文言には修正していない。7条3項に、「当社の責めに帰すべき事由による場合を除き」という文言を付加する修正も行なわないとしている。

・利用停止措置をされた利用者がDeNAに問い合わせても、理由の説明がされず、すでに支払った利用料金の返金も拒まれているなどの相談が、消費生活センターに複数寄せられている。会員資格取消措置等の判断根拠についての通知や説明も行なわれていない。

実務上の対応

免責条項は慎重に定める必要がある

本判決は、直接的には、利用規約7条3項が全部免責条項に該当することを問題としたものです。
本来は事業者が責任を負うべき場合に関して、消費者契約法上認められている免責条項は、軽過失の場合の一部免責に限られています(消費者契約法8条1項)。消費者との利用規約において免責条項を定める場合には、消費者契約法に反する内容とならないよう、慎重に定める必要があるといえます。

不利益措置の要件は明確に定めておく必要がある

本件では、仮に利用規約7条3項が存在しなかった場合であっても、「著しく明確性を欠き、複数の解釈が認められる」などとする本判決の理由からすれば、利用規約7条1項c号e号が、消費者契約法10条(「消費者の権利を制限しまたは消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする」旨の条項)に該当するか問題となった可能性は残ります。

消費者にとって不利益となる措置の要件を定める際は、「著しく明確性を欠き、複数の解釈が認められる」ことは避ける必要があるといえます。他方で、事前にあらゆる状況を予見して網羅的に具体的な要件を定めておくことは困難であり、抽象的・包括的な要件を定めておくことも必要です。
そのなかで、「著しく明確性を欠き、複数の解釈が認められる」と判断されないようにするためには、本判決が示唆しているように、長くなり過ぎない範囲で考慮要素や具体例を明示する方法も、選択肢の一つとなります。
また、「当社が判断した」という文言を入れる場合には、「当社が合理的な根拠に基づき合理的に判断した」などの文言を使用することが考えられます。

運用にあたっても十分な説明を行なう必要がある

本判決は、実際の運用も考慮したうえで、当該条項が不当条項に該当するか判断している点が特徴的です。
不当条項に該当すると判断されないようにするためには、消費者にとって不利益となる措置を行なう場合には、事前に通知することや、消費者から説明を求められた際に十分な説明を行なうことも、有益であるといえます。
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執筆者プロフィール

今津泰輝氏(弁護士)
米国を本拠地とする大規模ローファームを経て、平成21年に今津法律事務所(現弁護士法人今津法律事務所)を開設し約10年。『なるほど図解 会社法のしくみ』(中央経済社)等著作、講演多数。①会社法・取締役の関係、②契約書作成・商取引・規定作成、③訴訟・トラブル解決支援、④中国ビジネス・海外との商取引等に取り組んでいる。


坂本 敬氏(弁護士)
平成27年1月に今津法律事務所(現弁護士法人今津法律事務所)入所。「判例から学ぼう!管理職に求められるハラスメント対策」(エヌ・ジェイ出版販売株式会社)等講演、著作多数。①会社法・取締役の関係、②契約書作成・商取引・規定作成、③訴訟・トラブル解決支援、④中国ビジネス・海外との商取引等に取り組んでいる。

弁護士法人今津法律事務所
http://www.imazulaw.com/

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