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消費者契約法に基づく利用規約に対する差止請求が認められた事例(第1回)

2021年4月19日更新

サポートクラブ 法務News&Topics

消費者契約法に基づく利用規約に対する差止請求が認められた事例(第1回)

[今津泰輝氏(弁護士)][坂本 敬氏(弁護士)]
事業者が多数の顧客にサービスを提供する場合、利用規約によって、顧客との権利義務を定めることが多く見られます。
このうち、消費者に提供するサービスの利用規約については、消費者契約法の適用があることに注意が必要です。

近時、株式会社ディー・エヌ・エー(以下「DeNA」)が運営するポータルサイト「モバゲー」の利用規約について、消費者契約法に違反する内容であるとして差止請求訴訟が提起され、令和2年11月5日、東京高裁は、DeNA側の主張を斥け、差止請求を認める判決を言い渡しました。なお、最高裁への上告等はなされなかったため、東京高裁の判決が確定しています。
本判決は、最高裁の判決ではないものの、消費者に提供するサービスの利用規約の作成・運用に関して参考になる裁判例ですので、2回に分けて紹介します。

本訴訟の主な争点

本訴訟において主な争点となったのは、モバゲーの利用規約のうち、以下の7条3項が、 全部免責条項等の無効を定める消費者契約法8条1項1号および3号に該当するかどうかという点です。
第7条 モバゲー会員規約の違反等について
  1. モバゲー会員が以下の各号に該当した場合、当社は、当社の定める期間、本サービスの利用を認めないこと、又は、モバゲー会員の会員資格を取り消すことができるものとします。ただし、この場合も当社が受領した料金を返還しません。
    a. 会員登録申込みの際の個人情報登録、及びモバゲー会員となった後の個人情報変更において、その内容に虚偽や不正があった場合、または重複した会員登録があった場合
    b. 本サービスを利用せずに1年以上が経過した場合
    c. 他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけたと当社が【合理的に】判断した場合
    d. 本規約及び個別規約に違反した場合
    e. その他、モバゲー会員として不適切であると当社が【合理的に】判断した場合
  2. (略)
  3. 当社の措置によりモバゲー会員に損害が生じても、当社は、一切損害を賠償しません。
※【 】内は、地裁判決後に、DeNAが追加した部分です。
・消費者契約法8条1項

次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。

一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項

二 (略)

三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項

四 (略)

訴訟に至った経緯

本訴訟を提起したのは、モバゲーの利用者である個人ではなく、「埼玉消費者被害をなくす会」という消費者団体でした。
通常、民事訴訟は、自らの権利義務について裁判所に判断してもらう場合に提起することができます。しかし、消費者による個別の権利行使のみでは、消費者トラブルを十分に防止することができないため、認定を受けた適格消費者団体には、一定の消費者契約法違反がある、または、そのおそれがある事業者に対し、差止請求を行なうことが特別に認められています。
適格消費者団体は、このような権限に基づいてさまざまな事業者に対して訴訟外で申入れを行なっており、事業者側が修正等に応じることにより、和解的に解決していることも多いです。なお、適格消費者団体には、消費者に対する情報提供に努める義務があるため、事業者とのやり取りの内容は、通常、各適格消費者団体のホームページにおいて公開されています。
本件においても、埼玉消費者被害をなくす会がDeNAに対して利用規約の修正を訴訟外で求めましたが、DeNAはこれを拒否したため、訴訟に至りました。DeNAとしては、サービスの不適切な利用や悪質なクレーマーへの対応のために、前述の条項を維持したかったのではないかと思われます。

訴訟の結果

DeNAは、訴訟において、概要、以下のような主張を行ないました。

・利用規約7条1項c号およびe号の「当社が判断した場合」の「判断」とは、「合理的な根拠に基づく合理的な判断」を意味する。

・そのため、利用規約7条1項c号およびe号の適用によりDeNAに損害賠償責任が発生することはそもそもなく、利用規約7条3項は、そのことを確認した条項であって、DeNAの責任を免責する条項ではない。

地裁は、DeNAの主張を認めず、差止請求を認容しました。そこで、前述のとおり、DeNAは、地裁判決後、利用規約7条1項c号およびe号に、「合理的に」という文言を追加する修正を行ないました。
しかし、高裁も、DeNAの主張を認めず、差止請求を認容しました。

次回、判決の詳細な内容と、それを踏まえた実務上の対応について紹介します。
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執筆者プロフィール

今津泰輝氏(弁護士)
米国を本拠地とする大規模ローファームを経て、平成21年に今津法律事務所(現弁護士法人今津法律事務所)を開設し約10年。『なるほど図解 会社法のしくみ』(中央経済社)等著作、講演多数。①会社法・取締役の関係、②契約書作成・商取引・規定作成、③訴訟・トラブル解決支援、④中国ビジネス・海外との商取引等に取り組んでいる。


坂本 敬氏(弁護士)
平成27年1月に今津法律事務所(現弁護士法人今津法律事務所)入所。「判例から学ぼう!管理職に求められるハラスメント対策」(エヌ・ジェイ出版販売株式会社)等講演、著作多数。①会社法・取締役の関係、②契約書作成・商取引・規定作成、③訴訟・トラブル解決支援、④中国ビジネス・海外との商取引等に取り組んでいる。

弁護士法人今津法律事務所
http://www.imazulaw.com/

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