• ヘルプ
  • MYページ
  • カート

専門家コラム Professional Eye

2021年4月20日更新

サポートクラブ 税務News&Topics

所得拡大促進税制とその適用にあたっての留意点

[田中康雄氏(税理士)]

税務に関する法改正情報などの最新ニュースや、注目の話題をピックアップ。専門家がわかりやすく解説します。

中小企業が前事業年度よりも従業員に対する給与の支給額を増額した場合、一定の要件を満たせば、いわゆる「所得拡大促進税制」を適用することができ、その事業年度の法人税の額から一定の額を控除することができます。
コロナ禍において業績が伸び悩むなか、この制度を活用できる中小企業はそれほど多くはないかもしれませんが、本コラムではこれから決算を迎える中小企業が適用する際の留意点と、令和3年度税制改正に盛り込まれた改正点を中心に確認します。

制度の概要

所得拡大促進税制は、中小企業者等が、賃金台帳に記載のある国内雇用者に対し、これを適用する事業年度の損金の額に算入される給与等の支給額(雇用者給与等支給額)について次項の「適用要件」を満たす場合には、その雇用者給与等支給額から前事業年度における雇用者給与等支給額(比較雇用者給与等支給額)を控除した金額の15%相当額(後述する「上乗せ要件」を満たせば25%相当額)を当事業年度の法人税額から控除することができる制度です。
控除できる金額は、当事業年度の法人税額の20%相当額を限度とし、令和3年度税制改正においては適用要件を見直したうえで、令和5年3月31日までの間に開始する各事業年度にまでその適用が延長されました。

適用要件

所得拡大促進税制を適用するにあたっては、次の(1)と(2)の要件を満たす必要があります。

(1)雇用者給与等支給額 > 比較雇用者給与等支給額

(2)
継続雇用者給与等支給額-継続雇用者比較給与等支給額
継続雇用者比較給与等支給額
≧ 1.5%
 
ここで、継続雇用者給与等支給額とは、適用年度と前事業年度の各月において給与等の支給を受けた国内雇用者をいいます。つまり、24か月在籍している従業員等がその対象となります。
なお、この場合の国内雇用者とは、雇用保険に加入する一般被保険者に限られ、高年齢者等を対象とする継続雇用制度対象者は除かれます。
また、継続雇用者比較給与等支給額とは、前事業年度を適用年度とした継続雇用者給与等支給額をいいます。

上乗せ要件

上記適用要件のほか、次の(3)と(4)の要件を満たす場合、上乗せ措置を適用することができます。
(3)
継続雇用者給与等支給額-継続雇用者比較給与等支給額
継続雇用者比較給与等支給額
≧ 2.5%
 

(4)次のイまたはロに該当する場合

教育訓練費の額-中小企業比較教育訓練費の額
中小企業比較教育訓練費の額
≧ 10%
 

経営力向上計画の認定を受けている中小企業者等で、その計画に従って経営力向上が確実に行なわれたことにつき一定の証明がされたものであること

雇用者給与等支給額と雇用調整助成金

雇用者給与等支給額とは、上述のとおり、法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいいます。たとえば、原価に含まれる労務費の一部が仕掛工事等の棚卸資産などに振り替えられた場合であっても、その部分は雇用者給与等支給額の計算に含まれることになります。
また、これらの給与等の支給額は「その給与等に充てるため他の者から支払いを受ける金額がある場合には、当該金額を控除した金額」と規定されています。つまり、今般の新型コロナウイルス感染症拡大の影響のなかで、中小企業者等が交付を受けた雇用調整助成金は、給与に充てるために他の者から支払いを受ける金額に相当するため、雇用者給与等支給額を計算するうえでは、これを除外する必要があります。

令和3年度税制改正における見直し

令和3年度税制改正では、所得拡大促進税制について継続雇用者(比較)給与等支給額の概念がなくなり、この制度がより適用しやすくなりました。
これまでこの制度の適用要件を確認するにあたっては、(比較)雇用者給与等支給額と継続雇用者(比較)給与等支給額を別々に算定する必要がありましたが、今般の税制改正によって(比較)雇用者給与等支給額のみを算定すればよくなります。
具体的には、改正後の適用要件は、次に該当する場合となります。
雇用者給与等支給額-比較雇用者給与等支給額
比較雇用者給与等支給額
≧ 1.5%
 
これに合わせ「上乗せ措置」における増加割合の算定においても、同じように継続雇用者(比較)給与等支給額の概念がなくなっています。
また、上述のとおり、これまで給与等の支給額は「その給与等に充てるため他の者から支払いを受ける金額がある場合には、当該金額を控除した金額」とされていましたが、他の者から支払いを受ける金額の範囲には、雇用調整助成金とこれに類するものの額を含めないことが明らかにされました。
なお、これらの改正による見直しは、令和3年4月1日から令和5年3月31日までの間に開始する各事業年度において適用されることになるため、特にこれから決算を進める法人においては、雇用調整助成金の取扱いには注意が必要です。
執筆者プロフィール
田中康雄氏(税理士)
税理士法人メディア・エス、社員税理士。慶應義塾大学商学部卒業。法人税、消費税を専門とし、上場企業から中小企業まで税務業務を担当。資産税関連も含め税務専門誌に多数執筆。主要著書『ケース別「事業承継」関連書式集』(共著、日本実業出版社)、『設備投資優遇税制の上手な使い方』(税務経理協会)。